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#普通
野々さくら
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ありあ
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信愛は少し俯き、静かに口を開いた。
「私ね・・正直言うと怖いの」
朝陽は黙ったまま、信愛の言葉を受け止める。
信愛は震える息を吐きながら続けた。
「今まで誘拐された経験とか無かったし
それに、もしかしたら日本が
無くなるかもしれないって聞いて
それにお母さんまで巻き込まれそうな状況だし」
拳をぎゅっと握り締める。
「とんでもなく怖いの」
朝陽は小さく頷いた。
「だったら尚更──」
言葉を切ると、信愛はみんなへ視線を向ける。
「みんなはね?」
そして、優しく微笑んだ。
「そんな私に『日常』を感じさせたかったんだよ」
朝陽は首を傾げる。
「に、日常を?」
信愛は懐かしそうに笑う。
「茜が馬鹿みたいな冗談言って
それに焔垂くんがツッコんで
そのやり取りを見てさくらが笑ってる」
その光景を思い浮かべるだけで、表情が柔らかくなる。
「そうやって普段通りにしてくれたから
私・・ちょっとだけ安心できたんだ」
朝陽は目を伏せ、小さく呟く。
「先輩・・・」
信愛は首を横に振った。
「私はひとりじゃないって
そう・・思わせてくれたんだよ」
その言葉は朝陽の胸に深く突き刺さる。
彼は苦しそうに唇を噛み締めた。
「僕・・・とんだ勘違いを」
信愛は穏やかな眼差しで朝陽を見つめる。
「みんなは私を馬鹿にしてた訳じゃないんだよ」
朝陽は深く頭を下げた。
「すいません・・僕、戻ります
先輩たちに謝ってきます」
そう言い残し、朝陽は駆け足で玄関を飛び出した。
「あっ・・・」
朝陽の視線のその先には、焔垂、茜、そしてさくらの三人が立っていた。
焔垂は片手を上げる。
「よう!」
朝陽は目を丸くする。
「先輩・・・」
茜は呆れたように肩をすくめた。
「もう、ひとりで勘違いしすぎ」
さくらも苦笑しながら頷く。
「ほんとそれ」
朝陽は申し訳なさそうに頭を下げる。
「すいませんでした」
そして震える声で続けた。
「僕・・みなさんが信愛先輩の事
気にしてない、デリカシーの欠片も無い
冷酷人間だと勘違いしてました!」
もう一度、深く頭を下げる。
「すいませんでした」
すると茜が吹き出した。
「冷酷人間は言い過ぎでしょ」
そう言うなり、悪戯っぽく朝陽の脇腹をくすぐる。
「ひゃっ!」
朝陽は思わず身をよじる。
「す、すいません」
その様子に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
焔垂は真剣な表情になり、朝陽の肩へ手を置く。
「この状況に誰よりも恐怖を
感じてんのは白縫さんとお母さんだ
そんな中で俺が怖がって怯えてたら
さらに怖がらせるだけだろ?」
朝陽ははっと息を呑み、静かに頷く。
「そう・・・ですよね」
朝陽は目元をこすり、小さく鼻をすすった。
「ぐすっ・・」
その様子を見たさくらは、くすりと笑って朝陽の頭を優しく撫でる。
「ほらほら、泣かないの〜♬よしよ〜し♬」
朝陽は慌てて一歩下がった。
「こ、子供じゃないです」
焔垂は腕を組み、真顔のまま言い放つ。
「いや、お前は子供だ」
一拍置いて、口元を緩めた。
「キャラ弁大好き子供だ」
朝陽はきょとんと目を瞬かせる。
「キャ、 キャラ弁?」
焔垂は得意げに胸を張る。
「ああ、略して『キャラモ』だ」
朝陽は思わず眉をひそめた。
「キャ、キャラモって何ですか
絶妙にダサいネーミングやめてください」
その一言に茜が吹き出す。
「キャ〜ラモ♬」
さくらまで便乗する。
「キャ〜ラモ♬」
二人は楽しそうに声を揃え、阿波踊りのように踊る。
そんな二人を見て朝陽は両手を振って抗議する。
「だからやめてくださいってば!」
その必死な様子に、三人はさらに笑い声を上げた。
やがて信愛が玄関からゆっくり姿を現す。
「みんな・・・」
焔垂は振り返り、照れくさそうに頭を掻いた。
「ああ、悪かったな。また皆して押しかけて」
信愛は小さく微笑む。
「ううん」
茜は信愛の前へ歩み寄り、優しく言った。
「信愛」
信愛は首を傾げる。
「ん?」
茜はにっこり笑う。
「私たちがついてるから、心配しないでね」
信愛の目が少し潤む。
「ありがとう・・・」
焔垂は朝陽の肩へ腕を回し、歩き出した。
「ほら〜・・帰るぞキャラモ」
朝陽は顔をしかめる。
「だからその呼び方やめてくださいって」
焔垂はニヤリと笑う。
「キャラモ嫌か?なら別の──」
茜がすかさず口を挟む。
「キャラ|添《ぞえ》|弁《べん》|陽《ひ》」
さくらは腹を抱えて笑い出した。
「きゃはははは!べ、弁陽って何(笑)
めちゃくちゃ面白過ぎ、きゃはははは」
朝陽はさらに顔をしかめる。
「弁陽はもっと嫌です!なんか
便秘みたいに聞こえるじゃ無いですか」
茜は肩を震わせながら笑う。
「ワガママだなぁ、弁陽くんは〜」
「だからやめてください!」
焔垂は腕を組み、真剣な顔を作る。
「ならキャラ添マザ陽だな」
朝陽は即座にツッコミを入れた。
「そのマザは何のマザですか!
もしかしてマザコンのマザですか?」
「そうだけど?」
朝陽の問いに焔垂は、眉ひとつ動かさずに、さも当然と言った口調で言い放つ。
「だからマザコンじゃありませんってば!」
その場に大きな笑い声が響く。
信愛は少し離れた場所から、その光景を静かに見つめていた。
(みんな・・・)
ふと胸が温かくなる。
(わざと場の雰囲気を明るくしてくれてる)
恐怖に支配されかけていた心が、少しずつほどけていく。
信愛は誰にも気付かれないよう、小さく微笑んだ。
(ありがとう)
コメント
1件
はい、読み終わりました……! 後半のギャグパートに和む一方、「日常を感じさせたかった」という信愛さんの言葉がすごく響きました。怖いときほど無理に慰めようとせず、あえて普段通りに接してくれる仲間の優しさがじんわり沁みますね。朝陽くんの不器用な思い込みも、みんなに笑い飛ばしてもらえて良かった……「キャラモ」「弁陽」の流れ、思わず笑いました。←「キャラ添マザ陽」には私もツッコみたい(笑) 信愛さんの小さな「ありがとう」が温かいラストで、すごく好きな場面です。