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翌日の朝。

エステルが朝食の準備をしていると、ミラがいつもより早い時間に起きてきた。


「おはよう、ミラ。今日は早起きね」

「おはよう、エステル。今日はジャムを食べるのが楽しみで早く目が覚めちゃった」

「そうなのね。もうすぐ準備できるから、ちょっと待っててね」

「うん!」


そのうちアルファルドも起きてきて、食卓に三人がそろった。


「じゃあ、頂きましょうか」

「エステル、パンにジャムつけてもいい……!?」

「もちろん、どうぞ」


ミラがわくわくした表情で瓶からジャムを掬い取り、焼きたてのパンにたっぷりとのせる。

それからお行儀よく「いただきます」の挨拶をすると、小さな口を思い切り開けて、ぱくりとパンにかぶりついた。


ひと口頬張った瞬間、ミラの目がきらきらと輝く。 もぐもぐと味わうように噛みしめて、ごくんと飲み込んだあと、ミラが満面の笑顔を浮かべた。


「おいしい〜! エステル、このジャム、すごく美味しいよ! アルファルドも早く食べてみて!」

「ふふっ、気に入ってもらえてよかった。まだまだあるから、たくさん食べてね」


昨日はベリーを摘みすぎてしまったと思ったが、これだけ気に入ってもらえたなら、すぐになくなってしまいそうだ。


ミラにすすめられてひと口食べたアルファルドも、一瞬固まったあと、黙々とジャムパンを食べ続けている。


(アルファルド様も気に入ってくださったのかしら)


そうだといいなと思いながら、エステルもジャムパンをひと口頬張る。


(うん、美味しい!)


結局、エステルもパンを食べる手が止まらず、食卓のお皿はすっかり空になってしまった。


「エステル、ごちそうさまでした!」


ミラがご機嫌な様子でいつもの食後の挨拶をし、エステルが笑顔で応えたあと。

続いて別の声が聞こえてきた。


「……美味しかった。ごちそうさま」

「!?!?」


エステルもミラもぽかんと口を開けて、声のしたほうを見つめる。


「アルファルドがごちそうさまって言った……!」


ミラが信じられないといった様子で、ぱちぱちと瞬きする。


「……食事を終えたら挨拶するのだろう?」


アルファルドがぼそりと答えると、ミラは勢いよくかぶりを振った。


「うん、そうだよ! 次は『いただきます』も言ってね」


アルファルドが「分かった」と言ってうなずく。 そして困惑した表情でエステルに問いかけた。


「……君はなぜ泣いている」


うっかり両目からぼろぼろと涙をこぼしていたエステルは、涙を拭いて鼻をすすった。


「うっ……アルファルド様が美味しいって言ってくださったのが、嬉しくて……」

「……ミラが言うから、私も伝えたほうがいいかと思っただけだ」

「いつも何も仰らないので、お口に合わないのかと思ってました……」


だから、ミラが毎回美味しいと言ってくれるのは嬉しかったが、アルファルドから何の言葉もないことに少し落ち込んでいたのだった。


エステルから打ち明けられ、アルファルドが気まずそうに顔を逸らす。


「そんなことはない。君の作る食事には満足していたが、感想を伝える必要を感じていなかっただけだ。……だが、そんなに喜ぶならこれからはちゃんと言おうと思う」

「ア、アルファルド様……!」


昨日から、一体どうしたというのだろうか。


急にちょっと優しいことを言い出すなんて、何かの天変地異が起こる前触れではないかと思ってしまうが、やっぱり嬉しい。

こんなことを言われては、何かお礼をしたくなってしまう。


「あの、アルファルド様は何か気に入った料理はありましたか?」

「…………」

「特になければいいのですが……」

「…………シチュー」

「えっ?」

「シチューが気に入った」


アルファルドが顔を逸らしたまま、小さな声で返事する。


(アルファルド様はシチューがお好きだったのね!)


前に一度作って出したことがあったが、スプーンの進みが遅かったので、あまり好みではなかったのかと思っていたのだ。


けれど、もしかしたらゆっくり味わって食べてくれていたのかもしれない。 そう思うと、またじわじわと嬉しさが込み上げてくる。


「では、今日の夕食はシチューにしますね!」


寡黙なアルファルドが、頑張って味の感想を伝え、好きな料理も教えてくれたのだ。 これは早速お返ししなくてはと満面の笑みで答えると、アルファルドが少しだけエステルのほうを向いた。


「……ありがとう」

「……っ!?」


エステルはテーブルに突っ伏して叫びたくなるのをなんとか堪えた。 普段素っ気ない人の「ありがとう」の破壊力はすごい。


「エステル、大丈夫? 具合が悪いの?」


ミラが心配そうにエステルの顔を覗き込む。

苦しそうに胸を押さえていたため、いらぬ誤解をさせてしまったようだ。


「大丈夫よ、ミラ。ちょっと気持ちの処理が追いつかなくなってしまっただけだから……」

「よく分からないけど、大丈夫そうならよかった」




この日以降、アルファルドはいろいろな食材を買ってきてくれるようになった。

調理器具や食器も、今までは最低限のものだけだったが、料理に合った形や大きさのものをエステルの要望どおりに作ってくれて、とてもありがたい。


(やっぱり、本当はいい人なのかもしれない)


今では「いただきます」と「ごちそうさま」の挨拶に「美味しかった」の感想も欠かさず言ってくれるようになった。


(それに、よく見ると好みの料理を食べるときは少しだけ嬉しそうな顔になってる気がするのよね)


好物を食べたときのアルファルドの表情を思い出し、エステルの口もとは自然とほころぶのだった。


聖女は結婚相手の王子を捨て、闇魔法使いの手を取る 〜どうか私を呪ってください〜

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