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リンド村は、日に日に賑やかになってきた。
道には人の往来が増え、
広場には仮設の露店が立ち並び、
どこからともなく笑い声が聞こえてくる。
温泉施設の効果は絶大で、
領主の命により派遣された技術者や農夫、職人たちが
続々と村にやって来ていた。
「うーん!やっぱり人が増えるっていいわねぇ」
私は広場に腰を下ろし、
村の様子を眺めながらひとりごちた。
(……まるで、開場前の後楽園ホールって感じね)
そう。
現在、建設中なのだ。
世界征服の中核となる施設──
「サクラ・グランド・花月!!」
略してSGK。
“お笑い劇場”兼“プロレス会場”。
「ふふふ。
どちらも世界征服には欠かせない文化なのよ」
私は村の北、空き地の一角を見つめた。
地盤よし、温泉近い。
“宿泊客=観客”になる場所だ。
「ここにリングがあって……
そっちに花道……実況席はあのへん……」
私は何も言わず、地面に棒で大きく書き加えた。
【メインイベント:
可憐なファイター・サクラ vs 竜王ダークドラゴン辰夫】
「……お姉ちゃんも出場するんだ……」
「え? リングに立つのが魔王軍の魔王として当然でしょ?」
「あれ……お姉ちゃんが魔王?」
震えるエスト様。
「は!?……わ、わわ、我がサクラ殿と戦う!?」
辰夫が慌てて声を上げる。
「いや、いやいやいや!? なんでですか!?
む、無理です! 何をされるのか想像もつかない!
恐ろしすぎる……!」
辰夫がその場で崩れ落ちた。
「弱そうだからよ」
私は辰夫の目を真っ直ぐに見て言った。
「弱そう……そうですか……」
辰夫はそっと空を見上げた。
「え!? 竜王なのに!?
うちの看板モンスターなのに出オチなの!?」
辰美がツッコミながらも目をキラキラさせていた。
「お姉ちゃん?
魔王は私だよ?……ね?」
「……」
私は華麗にスルーした。
「……」
エスト様もそっと空を見上げた。
*
私は地面に描いた設計図を見て、満足げに頷いた。
しかし、横から覗き込んだ辰夫が青ざめている。
「あの……サクラ殿……?」
「ん?」
「これ……建設費用は……?
我のバイト代では……
百年働いても足りませんが……?」
「あ、大丈夫」
私はにっこり。
「領主に払わせるから」
沈黙。
「「「は!?」」」
三人が同時に声を上げた。
「だってこれ、公共事業よ?
温泉で税収が増える。人も増える。
あと全部いい感じになって、
領主の顔が立つ。以上」
「う……うん!?」
混乱するエスト様。
「いやいやいや!?」
「勝手に決めてません!?」
首を横にぶんぶんする辰夫と辰美。
私は地面に書き足した。
《建築費:領主負担》
「噂って税より効くのよ?
税金は『財布』を軽くするだけだけど、
悪い噂は『首』を軽くするの。
まぁ……歴史が証明してるわ」
「選択肢が……ない……」
辰夫が震える。
「分割払いにしてあげるわ。優しいでしょ?」
私は満足そうに頷いた。
*
「ふふ、これぞサクラ興業第一弾興行──
伝説の幕開けってやつね」
ちょうどその時、エスト様が真顔でぽつりと聞いた。
「お姉ちゃん、これって……
ほんとに世界征服なの?」
「え? そうよ?」
「え、だって、もっとこう……
バーン!ってお城が爆発したり!
ズドーン!ってお空が割れたり!
ふはははー!って高笑いしながらさ!?
おっきな塔の上から見下ろす……
みたいなの想像してたんだけど……」
「古いわね……昭和の魔王像かしら?」
「え!? じゃあ何!?」
私は鼻で笑って、村の広場を指差した。
「いい? 見てなさい、エスト様。
民衆が笑ってるでしょ? あれがね、征服よ」
「えっ? 笑いが?」
「そう。笑わせて、泣かせて、
謝ってから殴って、逆ギレして、
突然ドラゴン・スクリューして、
自分を正当化して感情を掌握するの。
これが”私の”世界征服。
プロレスとお笑い、どっちもガチよ」
「一部が凄く納得できた」
私は地面に棒で図を描きながら、堂々と言い放った。
「いい? 計画はこうよ──」
・温泉で客を呼ぶ
・SGKで笑わせて泣かせる
・物販で資金回収
・契約書で首根っこ掴む
・気付いたら王様
「世界を動かしたければ、
笑顔で契約書を差し出して、経費で殴れ。── 完璧ね!」
「ムダ様かな?」
「そそ、ムダ様。
で、気に食わない奴は?
貴族だろうと王様だろうとモンスターだろうと──
バーンてして、ズドーンてして高笑いするのよ?」
「……なんだ! やっぱり合ってた」
そう言って笑ったエスト様だったが、ふと顔を曇らせた。
「なんか、すごく楽しそうだけど、
でも、なんかちょっとだけ……
怖い気もするんだよね……
今の楽しいのが、終わるのが怖い…」
私は立ち上がって、そっとエスト様の頭を撫でた。
「……」
私は少しだけ黙って、視線を広場に向けた。
「うまくいくかどうかじゃないのよ。
うまくいくようにブチ上げて、
力技で押し通すの。
終わりが怖いならさ?
終わらせなきゃいい。
ずっと続く形に作り替えるの」
「……うん」
私はウィンクしながら棒をくるくる回し、地面の図面に
【王都ラウワ焼き討ち計画 (仮)】
【王都ラウワ in モンスター大襲撃(スタンピード)計画 (仮)】
と書いた。
「どっちが良い? どっちも楽しそうでしょ?」
「……どっちも怖いよ!?」
そのとき、村長が急ぎ足でやってきた。
「さ、サクラさん!
建設費用、工事費用等の請求書についてですが……」
「はいはい!
そろそろ王都にも行ってみたいと思ってたから、
ついでに領主に渡してくるわね♪」
「さすがです!」
村長が請求書を出した。
「えっ、王都!?」
エスト様が目を丸くした。
「うん。王都の視察しとくか」
私は腕組みドヤ顔。
──その瞬間、広場のどこかから歓声が上がった。
振り返ると、元盗賊団のひとりが、
バナナの皮で滑って転倒していた。
「だ、大丈夫か?」
「……ネタのつもりでした!」
村中に笑い声が響き渡る。
私は立ち上がって、パチパチと手を叩いた。
「見なさい、エスト様。
これが、文化で支配よ。
今のは古典すぎるから、
私がレベルを上げる必要あるけどね」
「うーん……?」
エスト様が首を傾げる。
(まぁ、難しいわよね)
「あ!お笑い養成所も作ろう。講師は私」
「養成所!?」
エスト様が口を開けたまま固まる。
「名前はNSC(なんでやねんサクラカレッジ)」
「なんでやねん!雑すぎる!」
「そう。
毎日それを三百回言わせる
“なんでやねん”はお笑いの筋肉」
「絶対入りたくない……」
エスト様は引いてた。
*
「というわけで──領主の居るオーミヤに行きます!」
「突然すぎィ!!」
エスト様のツッコミをスルーしながら、
私は地面に看板を立て、文字を描いた。
【留守です。
何かあればワイトまで。
苦情は受け付けません】
「よし、完璧! エスト様!
ワイト呼んどいて。引き継ぎしないとね
ついでにサタンも。サタンはなんとなく。
帰る姿が面白いから」
「りょうかーい」
「あやつら、また徒歩で帰宅か……」
辰夫が同情した。
*
嫌がるワイトに仕事を押し付け、
納得してないサタンを無視して、村の広場に戻る。
すでに荷造りを済ませた辰美がぴょんぴょんと跳ねていた。
「遠足! 遠足だ〜!
オーミヤって何があるんですか?
ごはん? スイーツ? 祭り? 世界征服?」
「全部あるんじゃない?最後以外はおまけだけど」
「やったー!」
その隣では、
辰夫が泣きそうな顔で荷物を引きずっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください……
バイトのシフトが……!
親方にはお世話になってまして……」
「うるせぇ! 行こう!」
ドン!!
私は辰夫の背中を叩き、そのまま強制連行。
道行く村人たちが手を振る中、
私は胸を張って歩いた。
「さて、今回の旅の目的は二つ。
オーミヤの街に請求書と宣伝。
……ついでに王都ラウワに行って王座」
「ついでがデカい!」
「……うっかり王座をいただいちゃおうかなって!」
「うっかり!?」
「そう。うっかりね。
ついでにうっかり貴族から地位を剥奪して、
うっかり税制を改正して、
うっかり世界征服の足がかりにしときたいわね」
「うっかり我らも処刑されますぞ……」
辰夫が心配してる。ホントに竜王なの?
「処刑?そん時は暴れれば良いのよ♪」
私たちは、笑いとプロレスと請求書を携えて──
いざ、領主の居るオーミヤへ!
*
その時、魔王軍一同の頭に天の声が響いた。
【サクラは「支配地域数:2」を達成しました】
【世界征服達成度:……オマケで3%】
「……オマケ!?
私の野望がオマケ扱い!?!?」
私は目を見開いて固まった。
「嘘でしょ? ここまでして3%……?」
「やったー! 世界征服してる感きた」
「ははは。世界は広いということですな」
「まぁそんなもんかもですねぇ」
「おい、小娘!
そこ感動するとこじゃないから!
残りあと97%って何!? やばない!?
やめてよ私そんな体力タイプじゃないんだけど!?」
《天の声:がんばってください♡》
◇◇◇
──その頃。
遠く離れたオーミヤの領主邸の一室。
冷えたワインを手に、
領主が不気味に笑っていた。
「……奴らが王都に向かった?
ふん、よかろう。いずれ”王”に仇なす者……
王に報告する口実ができたわけだ……」
彼は窓の外に目を向けた。
「笑わせる。征服? プロレス? ふざけおって……」
ワインのグラスを傾けると、
その瞳にはほんの僅かに、恐れと怒りが混ざっていた。
「……だが忘れるな、鬼の女よ。
お前に踏みにじられた者は……忘れぬ
誰か居るか!? 王国の騎士軍を呼べ!」
(つづく)
◇◇◇
──【今週のムダ様語録】──
『世界を動かしたければ、
笑顔で契約書を差し出して、経費で殴れ』
解説:
暴力より請求書、剣より書類、城壁より会計処理。
支配とは、領収印を握ること。
ムダ様はそうおっしゃいました。