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それから数日後のことだった。
何気なく仏間を覗くと、透明なビニール袋や茶色い紙袋に詰められた爺ちゃんの遺品が山のように部屋の隅に積まれていて、俺は眼を丸くしながら、居間でテレビを観ている婆ちゃんに声をかけた。
「婆ちゃん、これ、全部捨てるの?」
すると婆ちゃんは「ん~?」と何とも言えない間延びした返事をして、よっこらせと立ち上がると俺のところまでやってくる。それから仏間を覗き込みながら、
「まぁ、もうお爺ちゃんもいないしねぇ」
「でも、思い出の品とかあるでしょ?」
「大丈夫よ」
と婆ちゃんは小さく笑う。
「取っておきたいものは、もう別にしてあるから。ここにあるのは、お爺ちゃんが癖みたいに書いてたメモ帳とか、読んでた本とか、着古した服とか……そんなものばっかりだから」
「ふぅん……?」
俺は仏間の中に入ると、ビニール袋の中に何が入っているのか何となく覗いてみる。
ノートのカバーやビニールでできたバッグ、爺ちゃんが趣味で集めていた小さな動物のフィギュア(昔売ってた食玩だそうだ)なんかもあって、なんだかちょっともったいない。
「要るのがあったら、今のうちに出しておいていいのよ?」
「うん、そうする」
「開けたらもう一度封をしておいてね」
「わかった」
居間に戻っていく婆ちゃんを見送って、俺は軽く袋の中を確かめて回る。
写真を飾っていたプラスチックのスタンド、どこかの観光地で買ってきたらしいアクリルのキーホルダー、見るからに古そうなCDやDVDとそのケース、合皮らしい名刺ケースに手帳、ネクタイやシャツ、パジャマにポロシャツ、分別された枕カバーとその中身などなど。
俺はその中から何体か動物フィギュアを取りだし、他にもまだ使えそうなグレーのショルダーバッグやペンも貰うことにした。
爺ちゃんだって孫である俺が使った方が、捨てるよりもきっと喜んでくれるに違いない。
思いながらふと脇に目を向けると、半透明のビニール袋の中に、雑多に突っ込まれたアクセサリーの山が目に入った。それを見て、俺は思わず首を傾げる。爺ちゃんがアクセサリーをつけているところなんて、俺は今まで一度たりとも見たことがなかったからだ。
袋の中を畳の上に広げてみれば、指輪やネックレス、ブレスレットといったものがどっさり出てきた。しかも、同じような形で大きさの違うもの同士が一組ずつ、すっかり黒ずんでしまったシルバーで、歪んで形が変わっていたりするものもあった。
俺はそれらを持って居間に向かう。
「婆ちゃん、これは?」
「あぁ、それね。お爺ちゃんが昔、趣味で作ってたのよ」
「爺ちゃんが? これを? でもつけてるの見たことないけど」
「だって、ジュンちゃんが生まれるよりもずっと昔の話だもの」
「同じのが二つずつあるけど、これ、もしかして片方は婆ちゃんの?」
「そうよ」
「これ、でも、捨てちゃうの?」
「まぁ、もう古いし、形が変わっちゃってるし、汚いしねぇ」
「本当にいいの? 思い出の品なんじゃないの?」
「確かにそうだけど、でもねぇ……」
少し困ったように笑う婆ちゃんに、俺は、
「じゃぁ、もしこれを直したら?」
「直す?」
うん、と俺は頷いて、
「これを元のように直せたら、婆ちゃんだって嬉しいだろ? たまにはこれを眺めて、爺ちゃんとの思い出に浸れるんじゃない?」
「まぁ、そうねぇ。でも……」
「任せてよ、絶対、綺麗に直して見せるから!」
俺は胸を張って、婆ちゃんにそう言った。