だから私がこのような形で挨拶をさせて頂くのは、差し出がましいと思いますが、遥香のどうしてものお願いという事なので、こうして貴重なお時間を頂いております」
葵の登場に会場がざわつき始めた。
当然だった。
葵は20年前に死んでいるのだから。
そんな葵の登場に会場は収まりがつかなくなっていった。
「皆様、この映像は母が生前この日の為に、撮っておいてくれた物です。ビックリさせてしまって申し訳ありません。しばらくそのままご静聴お願いします」
遥香の言葉で招待客は納得し、会場内は再び落ち着きを取り戻していった。
遥香の機転で何とか乗り切る事が出来たが矛盾している点も多く、それに気付いた招待客が再び騒ぎ出すんじゃないか心配だった。
それでも葵はしばらくの間、挨拶の言葉を述べていた。
みんながスクリーンを見て、葵の話に聞き入って涙を流しているというのに1人だけどうしようもないバカがいた。
性懲りもなく、千葉がまた亜季ちゃんに話しかけていた。
亜季ちゃんも相手にしなきゃいいのに楽しそうに話をしていた。
しばらく黙って見ていると、亜季ちゃんは千葉の耳元で何かを話していた。
その直後、千葉は頬に手をあて嬉しそうに微笑んでいた。
それからしばらく2人を観察していると、今度はジャンケンを始めた。
こんな時にジャンケンだなんて、あいつ何考えてるんだ…。
あれ???
何かおかしくないか???
ジャンケンをする亜季ちゃんと千葉を見ていて変な違和感を感じた。
そういえば亜季ちゃんって確か右利きだったはず…。
でも、千葉とジャンケンをしている亜季ちゃんは迷う事なく何度も左手を出していた。
それにさっきは気にも止めなかったけど、食事をしている亜季ちゃんは左手で箸を持っていた。
左利きなのは葵で右利きは亜季ちゃんだった。
亜季ちゃんが右利きから左利きに変える必要など何もない。
それに今思い出すと、いつの日からか葵の利き手は左から右へと変わっていた。
しばらくすると千葉は亜季ちゃんの席から離れて自分の席に向かっていた。
僕は招待客がスクリーンに見いっている中、千葉の後を追った。
「おい、千葉っ!」
「あらっ、瑛太くんじゃない。何かしら?」
「さっき亜季ちゃんに何か耳打ちされてたけど、何て言われたんだ?」
「気になる?」
「あぁ…」