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まだ太陽が天辺に届く前の時間。
朝露の残る草原で、二人の兄弟は並んで腰を下ろしていた。
風はやわらかく、空は高く澄んでいて──
それは、ただの平和な一日だった。
「ナイトメア、ねえ、あの雲見て!ほら、あれ!クロワッサンに見えると思わない?」
「……クロワッサン?僕には羊に見えるなぁ」
ナイトメアは静かに目を細めて、ドリームが指差す空を見上げた。
「えー!?丸くて、ちょっと角がくるってしてるでしょ?絶対クロワッサンだよ!チョコのやつ!」
「……味まで決まってるんだ」
「だってー!!食べたいなって思ったんだもん!!!」
「確かに、朝ご飯をまだ食べてなかったね」
ふっと小さく笑うナイトメア。
その微笑みは、春の風のようにやわらかくて、弟にだけ見せる特別なものだった。
「ナイトメアはさ、そうやってすぐ静かに笑うけど……本当は楽しい時もあるんでしょ?」
「まあね。……でも、騒ぎ立てるのが得意ではないんだよね」
「ふーん……楽しいなら大声で笑えばいいのに……」
しばらく黙って、二人は並んで空を見上げた。
ドリームがぽつりと口を開く。
「……でもやっぱり、あの雲はクロワッサンだよ!!」
「どうして?」
「だって僕がそう“信じてる”から!」
「……いい考えだね」
ナイトメアは、その場にすっと立つ。
「?」
「折角だし、作る?クロワッサン。最近レシピを拾ったんだ。」
「ホント!?じゃあ早く帰ろうよ!ナイトメア!」
「そうだね!!ドリーム、お腹すいてるもんね。」
「そんなんじゃないよ~」
ドリームとナイトメアは笑いながら草原を走る。
──この日交わした何気ない会話が、
この先ふたりを繋ぎとめる、かけがえのない記憶になることを、
まだ彼らは知らない。
それでも、空に浮かぶ“クロワッサンの雲”は──
いつかどこかで、ふたりをまた思い出へと導いてくれるのだろう。