テラーノベル
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「どっ……どうぞ、ごゆっくり」
美花は慌てて笑顔を作り、厨房を抜けると、奥のリビングに向かった。
テーブルには、雪が作ってくれたドライカレーが、ラップに包まれて乗せられている。
電子レンジで温めた後、彼女は急いで食事を済ませると、速攻で入浴を済ませ、そそくさと二階の自室に向かった。
美花の頭の中には、早くヘッドフォンを使いたい事しかない。
「やっと…………憧れのヘッドフォンが買えたっ」
彼女は、パソコンを立ち上げている間、さっそく届いたヘッドフォンの小箱を開梱すると、ようやく欲しかった物が手元に届いた嬉しさで、思わず破顔させていた。
***
美花の趣味は、DTMで作曲する事。
父の和樹が、よくパソコンで、クラブミュージックのようなカッコいい音楽を作曲していたのを、当時、小学生だった彼女は、そんな父の背中を見つめ、父の奏でる音楽を耳にしてきた。
今は、作曲した楽曲を動画投稿サイトにアップする事が主流だけど、動画配信サイトがほとんどなかった当時、父は、完成した曲をMP3に変換して、オリジナル楽曲の投稿サイトに数ヶ所投稿し、同じ趣味を持つネット上のDTMerと交流。
オフ会にも時々参戦していた和樹は、作曲する音楽ジャンルは違えど、実際に同じ趣味を持つ人たちと会い、好きなDTMの話を思う存分できたのが楽しい、と言っていた。
『DTMって、楽譜が読めない人でも音楽が作れるんだよ』
『そうなの? じゃあ私にもできるかなぁ?』
『ああ。できるさ。パパができたんだから、美花にもできるよ。女性のDTMerだっているし、何年か前に開催された、楽器メーカー主催のDTM作曲コンテストで大賞を取ったのは、小学生だったんだからな』
父は、美花がDTMに興味を持ち始めた事が嬉しかったのか、パソコンを立ち上げると、DAWソフトのアイコンをクリックして、モニターに表示させる。
シーケンサーと呼ばれる音楽機材を、そのままパソコンの画面に移植したようなソフトは、美花の好奇心をくすぐった。
和樹は、楽譜が全く読めず、音を入力する時は、ピアノロール入力で曲を制作していた。
ピアノロール入力とは、画面の左端にピアノの鍵盤が縦に並び、音を入力すると、棒グラフのような太い線が現れる。
音の高さを変える時は、太い線を上下に動かし、太い線の右端を左右に動かすと、音の長さを変える、といった仕組みだ。
美花は父に、DTMの手ほどきを受け、自分なりに思いついたメロディを打ち込むようになると、和樹が美花の作ったメロディに、ベースラインやリズムを加えてアレンジ。
父と娘のコラボレーションを、パソコン上で楽しむ日々が続いたけど、突然、終わりを告げる出来事が起きた。
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