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広間の窓が、今日は大きく開け放たれていた。 カーテンは風に揺れ、ふわりと紅茶の香りを運んでいく。
外には初めて見る青い空。雲がゆっくりと流れ、その下には川と赤い光が寄り添っていた。
「ねえ、空ってこんなに広いんだね」
光が椅子に腰かけ、身を乗り出して窓の外を見ている。
「息を吸うだけで、胸の奥まで軽くなるみたい」
「ふふ……風が自由だからよ」
闇は紅茶を一口含み、カップを受け皿に戻す。
「掴めないものなのに、なぜか触れている気がする。不思議ね」
「でも、掴めないからこそ、ずっと求め続けられるのかも」
光は微笑みながら、カーテンの裾を指先でつまむ。
風にすぐさらわれ、布はくるりと逃げるように舞った。
「落ち着きはなかったけど……」
「でも、あの子は風そのものだった」
二人は声を揃え、同じタイミングで笑みを浮かべる。
テーブルの上のカップが小さく鳴り、また一陣の風が部屋を撫でた。
外の景色は少しずつ「世界」と呼べる形に近づいていく。
「次は、どんな人が来るのかしら」
闇の問いに、光がにっこりと笑って答える。
「どんな人でもいい。だって、ここはもう広いから」
二人の笑い声が、流れる風に混じって、館の奥深くへと消えていった。