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拳で扉を叩いたとき、重い音が館全体に響いた。 湿った泥が乾いて剥がれ落ち、拳から床へぼろりと落ちる。
扉がゆっくり開くと、そこにいたのは小さなふたりの子供。
白い髪の少年と、黒い髪の少女。
どちらも揃って私を見上げ、同時に笑った。
「大きい人だ」
「足音まで重たい」
言葉は幼いのに、どこか突き刺さるようだった。
私は背負った袋をずらし、深く息を吐いた。
「……耕す地を探している」
声が館の奥へと沈む。
「蒔いた種をすべて失った。荒れた土地ばかりで、根が張らなかった」
子供たちは顔を見合わせ、また笑う。
「ふふ……この館にも、まだ根を張る場所はないわ」
「でも、ぴったりの部屋があるよ」
私は首を傾げる。
けれど、不思議と疑う気にはならなかった。
この館の奥へ進めば、土に再び触れられる。――そんな予感だけが確かにあった。