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第二章 小さな光
第七話 旅立ちの約束
翌朝。
ジオは目を覚ましても、しばらくベッドから動けなかった。
窓から差し込む朝の光が天井を照らしている。
穏やかな朝だった。
けれど、昨夜のことを思い出すたび、胸の奥が落ち着かなかった。
「……」
ーーサフィ。
昨夜、部屋へ来てくれた。
話を聞いてくれた。
そして、抱き締めてくれた。
思い出した瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
温かかった。
安心した。
ずっと怖かったのに。
あの時だけは不思議と大丈夫な気がした。
「……」
顔が少し熱い。
慌てて布団を頭まで被る。
誰も見ていないのに。
なぜか、少しだけ恥ずかしかった。
朝食を終えた後、ジオはいつものようにマーサの手伝いをしていた。
薬草を仕分ける。
乾燥棚を整える。
いつもと同じ作業。
けれど心はどこか落ち着かなかった。
その時、店の扉が開く。
聞き慣れた声が響いた。
「おはよー、ジオのばあちゃん」
サフィアンだった。
ジオの手が一瞬止まる。
「おはよう、サフィ坊っちゃん。ジオは奥にいるよ」
マーサの声。
そして足音が近づいてくる。
「……おはよ、ジオ」
何故か少しぎこちないサフィアン。
目が合う。
逸らす。
「うん……おはよう」
また合う。
逸らす。
気まずかった。
理由はよく分からない。
ただ、昨夜までとは少し違う気がした。
「……」
「……」
沈黙。
先に口を開いたのはジオだった。
「昨日は……ありがと」
小さな声だった。
聞こえないかと思うほど。
けれどサフィアンはちゃんと聞いていた。
少し目を丸くして、それから柔らかく笑う。
「いいって」
それだけだった。
けれどその笑顔を見て少しだけ安心した。
しばらく他愛もない話をした後。
ふいに、サフィアンの表情が真面目になる。
「なぁ、ジオ」
「ん?」
サフィアンは少しだけ迷うような顔をした。
けれど、すぐに決意したように顔を上げる。
「……一緒に、街を出ないか?」
ジオは目を見開いた。
「え?」
思わず聞き返す。
サフィアンは真っ直ぐこちらを見ていた。
「ここにいても、何も分からない気がするんだ」
静かな声だった。
「自分のこと、知りたいんだろ?」
ジオは言葉を失う。
「……うん」
小さく頷く。
「でもサフィは……」
サフィアンはソルト家の長男だ。
貴族。
街の英雄。
将来を期待されている存在。
自分とは違う。
そう思った。
けれど、サフィアンは苦笑した。
「それなんだよな」
「え?」
「俺……」
少し遠くを見る。
「このまま学校卒業して、父上の仕事手伝って、家継いで、決められた道進むんだろうなって思ってた……」
青い瞳が揺れる。
「でも」
その目に光が宿る。
強く、真っ直ぐな光。
「なんか違うんだ」
サフィアンは笑った。
「もっと自由に生きたいんだ」
その言葉は十年前、草原へ寝転びながら話してくれた言葉と同じだった。
「好きな場所行って、好きなことして、広い世界を見てみたい」
そして少しだけ照れ臭そうに笑う。
「ジオと一緒にな」
胸が鳴った。
ジオは思わず目を伏せる。
街を襲った魔物。
冷たい視線。
囁かれる噂。
自分へ集まる瘴気。
砕けた御守り。
そして
マーサ、大好きな祖母。
頭の中に様々な光景が浮かぶ。
けれど最後に残ったのは、昨夜のサフィアンの言葉だった。
――俺がいる。
胸の奥で何かが動く。
ジオの黒い瞳に、小さな光が灯る。
顔を上げる。
サフィアンが待っていた。
返事を信じて、待っていた。
「……行きたい」
声が震える。
「サフィと」
青い瞳がぱっと輝く。
「ほんとに!?」
「うん」
その瞬間、サフィアンは満面の笑みを浮かべた。
「決まりだな!」
勢いよく立ち上がる。
「じゃあ準備しなきゃ!」
「準備?」
「服だろ!寝袋だろ!あと武器!食料もいるな!水筒も!地図も!」
次々と言い始める。
さっきまでの真面目な空気はどこへ行ったのか。
ジオは思わず吹き出した。
「なんか……」
「ん?」
「ピクニックの計画みたい」
一瞬静かになる。
そして二人同時に笑った。
薬屋の中へ笑い声が響く。
その音を聞きながら、マーサは何も言わず微笑んでいた。
真っ暗だった未来の中に、小さな光が見えた気がした。
それはきっと、二人が初めて自分の意思で選んだ未来への道標となるのだろう。
コメント
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おお、第14話…!サフィが「一緒に街を出ないか」って言ったところ、めっちゃ胸熱だったわ。ジオが震えながら「行きたい」って答えられたの、本当に良かった。あのぎこちない朝の空気から一気に笑い合える関係になってて、読んでてこっちまで温かくなった。マーサが何も言わずに見守ってるのも最高だし、二人が初めて自分の意志で選んだ一歩って感じがして、めっちゃ応援したくなる話だった🔥
桜城
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comi
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