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メイド長が工作員。
ブルーノの恐怖から、別のことに関心が向かったおかげで身体の震えが止まった。
「ブルーノさま、話します! 話しますから、服を離してください」
「……」
ぱっとブルーノの手が離れ、私は反対側にのけぞった。
深呼吸したのち、私は”自身の疑問”をブルーノに話した。
「私は、オリバーさまに”この戦争はおかしい”とお話いたしました」
「どう、おかしいんだ。言ってみろ」
「申し上げます」
苛立っていたブルーノも、話を聞いてくれるみたいだ。
腕を組んで、私の話を待っている。
今度、怒らせれば折檻は免れない。ちゃん言葉を選んで話さなければ。
「マジル王国の”魔術”なら、兵士を戦場に送らずとも、遠隔でカルスーン王国の領内に攻撃する手段を沢山持っています。他国の戦争でしたら、それらを主体とした戦術を組み立てるでしょう」
「……やはり、お前、マジルの人間だったのか」
「嘘をついて、申し訳ございません。ですが、オリバーさまは私の嘘を見抜いておられました」
「まあいい。お前の話が兄さんを救う手がかりになるかもしれない。続けろ」
説明をするには、まず私がマジル国民だったということを明かさねばならない。
それを知ったブルーノは、やっぱりといった態度をとり、あまり驚きはしなかった。
私の正体を知っているメイド長も話を遮ったりはしない。そうすれば、私がブルーノに折檻されると分っているからだ。じっと、私がこの危機を乗り越えるのを見守っている。
「ですが、カルスーン王国との戦争では、大量の兵士を進軍させた古い戦略が立てられています。私はそれが腑に落ちないのだとオリバーさまにお伝えしました」
「その話を聞いて、兄さんは向こうの思惑に気づいたんだろうな」
「そうだと思います」
私の話を聞いたオリバーは何かに気づき、王命に背いた。
「ブルーノさまでしたら、王様がオリバーさまに命じた内容をご存じではないでしょうか」
「……」
ブルーノは新たな情報を得て、推理をしている。
オリバーと同じ答えに至ることができるのは、弟であるブルーノしかいない。
しばらくして、ブルーノが「そうか」と言葉を発した。
それと同時に難しい表情から、ぱあっと晴れた表情へと変わる。
「秘術だ。あのデブ、事実を国王に話したんだ」
独り言を呟くなり、ブルーノは私とメイド長を放って二階へ駆けて行った。
折檻をされなくて済んだ。
痛い思いをしなくて済んだ、と私は安堵のため息をついた。
「エレノア」
「メイド長、私に話したいことがあるんですよね」
「ええ。人がいないところ……、今でしたら倉庫がいいでしょう」
「分かりました。私も、貴方にお聞きしたいことがあります」
私が腑に落ちない、マジル王国の古い戦略。
この答えはマジル王国の工作員であるメイド長なら知っているはず。
私は彼女の提案にのり、今の時間、人のいない倉庫へと向かった。
☆
倉庫内の灯りを付け、私とメイド長は向かい合うように立った。
「エレノアさま、数々の無礼、お許しください。あなたがアリアネ元帥の娘であるというのは、つい先日聞いたのです」
「……」
メイド長は私の目の前で跪き、頭を下げてそう言った。
この人がマジル王国の工作員であることに間違いはない。
私の事をアリアネ元帥の娘だと、正体を分かっているのだから。
エレノア・ヘップ・アリアネ。アリアネ元帥の娘。それがマジル王国での私の身分だ。
カルスーン王国内で例えるなら、侯爵の身分に値するだろう。
「お父様は、私がソルテラ伯爵家で働いているのはご存じなのですか?」
「はい。私が元帥に報告いたしました」
「それで、お父様はなんと」
「”マジル王国に戻れ”と仰っております」
「そう」
私は祖国から逃げ出した。
だけど、父は私を自由にはしない。
これはただの家出ではないと父に思い知らせるために、私は家出先にカルスーン王国を選んだ。
身分を捨てて、一から生活しようと。別人に生まれ変わろうと。
なのに、私はあそこへ戻らないといけないのか。
「安全にマジル王国へ戻れるよう、手配をしている所です」
「戻れるわけないじゃない。国境付近で戦闘しているのよ!?」
「私の仲間がエレノアさまを帰還させるルートを確保しております」
「仲間!? あなたの他に工作員がいるの?」
「ええ。お会いしていないと思いますが、スティナさまの愛人をしております」
グエル。あのおじさんだ。
スティナからソルテラ伯爵家の情報を聞き出していると思えば、彼もマジル王国の工作員だったのか。
「……分かりました。戻りましょう」
「では、支度が整いましたら――」
「ですが、条件があります」
私はメイド長の、父の要求をのむ。
しかし、実際にマジル王国へ戻るつもりはない。
私には【時戻り】がある。
今回もオリバーは死亡する。それは戦死かあるいは処刑か。
条件が満たされれば、私は八度目の【時戻り】ができる。
このやり取りも”なかったこと”にできるのだ。
ならば、私の腑に落ちない点をはっきりとさせたほうがいい。
「この戦争の目的を教えてください。何故、マジル王国は古い戦い方をしているのですか」
「承知いたしました。我が国の目的、お伝えします」
私の条件をメイド長は承諾した。
そして、彼女の口から、戦争の目的が語られる。