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保谷東
「…………っ!」
腕に、鮮やかな赤のラインがジワジワと滲み出し、美花は痛さで顔を顰める。
痛いと感じている時は、ほんの僅かな間でも、自分が恋愛してはいけない事や、悶々とした思いを忘れられる。
美花は、少し上の位置に、再び鈍く光る銀色の小さな刃を当て、ゆっくりと引いていくと、先ほどよりも太い赤のラインが浮かび上がった。
「……うっ……!」
鋭い痛みが左腕に走り、彼女は小さく呻いた。
痛みを感じている事は、生きている証拠。
彼女の左の二の腕から手首の少し上に掛けて、刃を横一線に引いた痕跡が多く残っていた。
『女の象徴と言われる胸なんて、恋愛をしてはダメな私には関係ない』と、両乳房の上にも自傷行為の跡が、微かに残っている。
(私は…………生きるために……自分を傷付けているだけ。やり場のない思いを、鮮血を出す事で、吐き出しているだけ……)
自傷行為は、苦悶の思いから自我を保つ術がなかった彼女の、苦肉の策だった。
「どうして……私は…………生まれてきたの……? 何のために……この世に生を受けたの…………?」
美花は、なおも左腕にカミソリの刃を当て、ゆっくりと滑らせた。
***
美花は、ロキタンスキー症候群という病気を患っている。
子宮と膣の一部、または全てが欠損して生まれる先天性の疾患で、約四千五百〜五千人に一人の女児に発症するといわれ、原因がはっきりしていない疾患。
卵巣と卵管は正常で、排卵や女性ホルモンの分泌は、一般の女性と同じだというけど、子宮がないため、月経は起こらず、妊娠、出産ができない。
彼女が自分の身体の異変に気付いたのは、高校一年生の時。
初潮を迎えていなかった美花は、母の雪に相談した。
『ねぇお母さん。私…………まだ生理にならないんだけど……本当に来るのかなぁ? 早い子は、小学生の高学年で生理が来るっていうでしょ?』
誰にも言えないデリケートな相談に、彼女は不安な表情で母に打ち明ける。
『そうねぇ……。私が若かった頃は、初潮を迎えたのは高校生になってから、っていう友だちもいたから、そんなに気に留めてなかったけど…………。近々、駅前の産婦人科に行ってみようか』
コメント
1件
それはつらいよ😔