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保谷東
数日後、美花は、雪に付き添われ、立川駅前にある立川産婦人科を訪れた。
丁寧に診察、検査をしてくれた女医の院長が、母娘の前に腰を下ろすと、それぞれに眼差しを送る。
『お母様。お嬢さんは、“ロキタンスキー症候群”の疑いがあります。立川緑病院に紹介状を書きますので、一度、精密検査を受けて下さい』
『ロキタンスキー症候群…………ですか? それは…………どんな病気……なんでしょう……か…………?』
初めて聞いた病名に、戸惑いながらも質問する雪。
『…………子宮と膣が、一部または全部が欠損している、先天性の疾患です』
院長から、淡々と病名を告げられた母は絶句し、美花はジワジワと瞳を見張らせた。
『中高生になっても初潮が来ない、と来院して、ロキタンスキー症候群だった、と判明する事が多いです。卵巣と卵管は正常なので、女性ホルモンの分泌、排卵は正常にありますが、膣と子宮は、一部または全部が欠損しているため生理がなく、妊娠、出産はできない疾患です』
(…………え? 先天性の疾患って…………生まれつきの病気って事……だよ……ね……? 生理がないのは…………病気のせい……って事? 私…………子どもが産めない身体……なの……?)
医師から告げられた衝撃的な言葉に、十代の美花は、大きな鉛を下腹部に投げ込まれたように気持ちが沈んでいく。
いずれ成人したら、愛する人と結婚し、子どもを産み、育てていくんだろう、と漠然と思っていた彼女だったけど、未来が一気に閉ざされた瞬間だった。
診察が終わり、帰路に着くまで、母娘は黙ったままだった。
雪は、臨時休業と走り書きさせた紙を店の入り口に貼ると、美花を強く抱きしめる。
『美花っ……!』
『おっ…………お母さん……?』
雪に突然抱きしめられた美花は、驚きの色を纏わせながら、母を見上げた。
『ごめん……なさ……い…………美花を……健康な身体に…………産んであげられなくて……本当に……ごめん……なさ……いっ……』
美花を抱きしめる腕に、力が込められていくほど、雪の声音が掠れながら濡れていく。
家族の大黒柱を交通事故で失い、女手ひとつで美花を育ててくれている母。
かけがえのない娘が、先天性の疾患だった事が判明し、雪は重責を感じているのか、啼泣(ていきゅう)している。
『お母さん…………。原因も分かったし……私は大丈夫……。大丈夫…………だ……よ……』
大好きな母に心配を掛けないように、美花は雪の腕の中で、涙を堪えるしかなかった。