妹は、才能のあるウマ娘だ。
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
才能豊かな天才達が集まる最高峰のウマ娘育成学園。
そこに合格することはとても凄いこと。
そこに入って勝ち上がるってことは、そう安易な気持ちで出来ることじゃない。
相当才能のある、選ばれしウマ娘だけが出来ることだ。
だけど、俺の妹はそれをやってのけた。
俺の指導の元。新人トレーナーの俺でもわかるぐらい完璧な走りだった。
デビュー戦を生で見た時、胸の高まりが止まなかった。
『俺の妹はあんな走りをするんだ、誰にも越えられないような完璧な走りを……!』
あの完璧な末脚、レース勘、仕掛けるタイミング……
全て完璧な走りを妹は披露した。
その日から俺は一日中勉強をしてた。
あの走りを鈍らせないために。
妹の成長を見るのが楽しくて、妹を本物の“帝王”にするために、ただただ努力した。
そのうちに、妹は目標を挙げた。
『“無敗の三冠”をとって、名前を売るんだ』
“皇帝”シンボリルドルフ以来誰も成し遂げることのなかった、“無敗の三冠”という大きな夢を。
妹はそう言うと、張り切ってトレーニングコースに走って行った。
妹が初めて自分で決めたことだ、張り切ってトレーニングに取り組んでやらなきゃ。
俺は一人、自室で勉強を四六時中やった。
休む間もなく、以前の倍以上の時間勉強してた。
妹からは、何度も『たまには休んでね』と言われたが、俺はひたすらに勉強した。
自分のことは何も考えなくて、ユリノがレースで勝つことだけを考えて。
───皐月賞の、一週間前のことだった。
その頃には俺の体調にも影響が出てきて、頭痛やクマが出てきた。
同期や先輩、妹には必要以上に心配された。
俺はそんなこと気にせずに、妹に一生懸命指導した。
坂路ダッシュ2本目に入る時、俺は妹の靴に穴が空いているのを見つけた。
妹にそのことを伝えると、まだ大丈夫と言って走り出したが、俺は妹を止めて妹の靴を買いに行くと言った。
その時、妹はありがとう、と少しだけ微笑んだ。
「ありがとうございましたー!」
ウマ娘専用スポーツ店から出て、賑やかな商店街が目に入る。
────そういえば、今日は俺とユリノが初めて出会った日だっけ。
そうとなればプレゼントを買わなきゃな、と商店街を歩いてみる。
キャアアアア!!!
「───!?」
後ろから大きな悲鳴が聞こえて、慌てて振り返る。
振り返った先には、黒い服の男がナイフを振り回し、通行人を次々と刺していた。
その男は俺を睨みつけると、俺に向かって走ってくる。
やばいやばい。逃げなきゃ…!俺……!
そう思ったが、俺の足は恐怖で動かなかった。
男はどんどん俺に近ずいてくる。
やばい……俺…死ぬのかな……!?
ザクッ。
男が体当たりして俺の体をナイフが刺した。
その反動で俺は地面に打ちつけられた。
「やばいよ……!どうしよう……!?」
「と、とりあえず、誰か!!警察呼んでよ!!」
「うわぁぁあん!!お父さあぁぁん!!」
通行人たちの泣き叫ぶ声が聞こえた。
「早く救急車!!この人、ナイフ貫通しちゃってるから!!」
そう言って俺に駆け寄る人もいた。