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第75話:協賛ニュースの制作現場
夜、都心の協賛放送局。
外壁の大型スクリーンには「今夜も安心をお届けします」の文字が緑色に輝いていた。
スタジオの内部は照明で眩しく、背景には巨大なホログラム地球儀──中央には「大和国・安心ネットワーク」の文字が回転している。
メインキャスターの**ツキシマ(38)は灰色のスーツに水色のネクタイ。
落ち着いた目元とやや低い声が、画面越しに“安心”を感じさせる。
隣のカホ(29)**はベージュのジャケットに薄緑のブラウス。
髪をきっちりまとめ、翡翠色のイヤリングを揺らしながら微笑んでいた。
「こんばんは、協賛ニュースの時間です」
二人の声が重なり、画面下にスローガンが現れる。
《今日も大和国に安心を。》
裏ではネット軍(ニンジャ)の声影隊が監視室で待機していた。
全員、墨染めの軽装に翡翠色の通信バッジを胸に付け、耳には翻訳用のイヤーリンク。
隊長格の女性が淡々と指示を出す。
「ツキシマのイントネーション、安心率95。カホの発音に“憂い”反応、除去補正をかけます。
……単語“懸念”は統制外語に接触、削除。」
その声と同時に、放送音声は滑らかに変化した。
「今夜のニュースは、各地で“軽い安心の揺れ”が確認されました。」
ツキシマは変わらぬ笑顔で次の原稿を読む。
「続いての話題です。国軍(サムライ)は新たに、**第三隊《森守隊》**を発足しました。
人と自然が共存する“安心の森”を守ることを目的としています。」
カホが穏やかに頷く。
「最近はイノシシやクマの出没も増えていますからね。森守隊が出動すれば、安心が保たれます」
画面には、濃緑の制服を着た森守隊の隊員たちが映る。
鉄鋼製の簡易防護服に、背中には「安心捕獲ユニット」と刻印された文字。
麻痺弾を装填する姿が流れると、ナレーションが重なった。
「森を守る。命を奪わない。その理念のもと、大和国は自然の安心も統制下に置いています。」
放送後。
控室でカホは鏡越しに自分の顔を見ていた。
メイクの下の表情は、わずかに固い。
そこへ緑のパーカー姿の放送監査官が現れる。
「今日の放送、AI安心指数は99.7でした。……ツキシマさんの“間”が少し長すぎましたね。
観測AIが“疑問の予兆”と判定しています。次回は注意を。」
ツキシマは軽く頭を下げた。
「はい。国民を惑わせる間を、無くします。」
監査官は満足げに頷き、退室した。
深夜、屋上。
街の緑色の照明が雲に反射し、霞むような空を照らしていた。
遠くには、森守隊の移動車両がヘッドライトを光らせながら山へ向かっていく。
カホは風に髪を揺らしながら呟いた。
「……あの人たち、本当に“守ってる”のかな。森を。」
ツキシマは小さく息を吐き、静かに答えた。
「守ってるように見せることが、いちばん守ることなんだ。大和国ではね。」
彼のネクタイが風に揺れ、翡翠色の照明に淡く光った。
その光はまるで、街全体がひとつのスクリーンのように、安心という演出を映していた。