テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
「でも、信愛のお母さんにはびっくりしたよね」
茜の言葉に、信愛も苦笑しながら頷いた。
「それだよね」
すると焔垂が、先ほどの出来事を思い返すように口を開く。
「白縫さんが猫の霊を目視できなかったのは
猫の霊気が白縫さんの霊気よりも多かったからで
そんな霊を目視できたおばさんの霊気は
白縫さんよりも多いって事だもんな」
信愛にとっても、それは今まで知らなかった事実だった。
「そんな話、今まで聞いた事なかったからさ」
「あれから聞かなかったの?」
さくらが尋ねると、信愛は少し言いづらそうに視線を逸らした。
「いや、聞こうとしたんだけどさ・・
いざ聞こうとしたら躊躇っちゃって」
「なんで?」
「いや、もしかしたらお母さんも何か
並々ならない理由があって、霊気が多い事を
隠してたのかもって思ったら、無闇に聞けなくて」
家族だからといって、何もかも話せるわけではない。
誰にだって、触れてほしくない過去や、知られたくない秘密のひとつやふたつはある。
「あ、それもそっか」
さくらも納得したように頷く。
「もしかしたらそれが理由で、いじめを
受けてたりした経験あるかもしれませんしね」
朝陽の言葉に、茜が露骨に顔をしかめた。
「なんか耳が痛い〜・・・」
「え?何でですか?」
朝陽が不思議そうに首を傾げると、信愛が思わず笑い声を漏らした。
「あはは、あれね」
「なんの話ですか?」
事情を知らない朝陽に、茜が少し気まずそうに説明する。
「いや、最初さ、私とさくらも
信愛の霊感の話、信じてなくてさ」
信愛が笑いながら続けた。
「偽心霊スポット作戦ね」
「偽心霊スポット?」
「偽の心霊スポットに、心霊スポット
だって偽って信愛を連れて行ったの」
「なんでです?」
「さっきも言ったように霊感の話を信じてなくて」
茜が肩をすくめる。
「それで霊感あるって嘘がバレるのを恐れた信愛は
それっぽい事言って乗り切ろうとするに違いないって」
ようやく話を理解した朝陽が、小さく頷いた。
「ああ、なるほど。それで偽心霊スポットか」
「あの時はごめんね」
今さらながら、さくらが申し訳なさそうに謝る。
信愛は気にした様子もなく笑った。
「今さら何(笑)今となっては楽しい思い出だよ」
それから焔垂が、どこか感慨深そうに呟いた。
「にしても、なんとか解決したみたいだな」
少しだけ間を置いてから、苦笑を浮かべる。
「まぁ、ほとんどおばさんの力だけどな」
「だね」
信愛も笑って頷いた。
こうして振り返れば、恐ろしい出来事さえも、仲間たちと共有できるひとつの思い出になっていく。
少なくとも今は、そう思えるほどの穏やかな時間が、怪異探求倶楽部に戻ってきていた。
◇ ◇ ◇
都内某所の古びた日本家屋の一室。
薄暗い和室の中で、一人の男が新聞を広げていた。
紙面を飾っているのは、狗頸学園高校の怪異探求倶楽部に所属する生徒たちの記事だった。
霊感商法詐欺師・霊貴冥孤の悪事を暴き、逮捕へと導いた高校生たち。
男は記事に掲載された写真をじっと見つめる。
「この娘・・・」
その視線は、写真に写る一人の少女に釘付けになっていた。
「似てますよね?」
向かいにいるもう一人の男が問いかける。
「ああ・・似ています」
新聞を見つめる男の目が、わずかに細くなった。
「霊貴冥孤は役立たずだと思ってましたが
鴨がネギをなんとやらですね」
「ええ、そうですね・・・」
偶然にもたらされた記事。
しかし彼らにとって、それは待ち望んでいたものへと繋がる大きな手掛かりだった。
「となると、この娘はやはり?」
「間違いないでしょうね」
男は確信を込めて答える。
「御船愛子の血は絶えていなかった。
そして彼女はまだ、どこかで生きている
という事になるでしょうね・・・」
その言葉を聞いた男が、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「そうなれば・・・」
「ええ・・・我々の目的達成の日も
そう遠くはないかもしれませんね」
「ですね」
二人の間に、静かな興奮が広がっていく。
これまで彼らが進めてきた計画にとって、霊貴冥孤は思いがけず大きな役割を果たしたのだ。
「霊貴冥孤は実にいい働きをしてました
この機を逃してはいけませんよ?」
「もちろんです」
男は新聞に写る少女を指差した。
「この娘を使って、御船愛子を誘き出す」
そして、その声に確かな野心を滲ませる。
「そして我々天縁教 教団は──」
薄暗い和室に、男の声が響く。
「修理固成を実現するんです」
その言葉とともに、部屋は再び不気味な静寂に包まれた。
怪異探求倶楽部の面々は、まだ知らない。
自分たちが解決したひとつの事件が、遥か昔から続く因縁を呼び覚ましてしまったことを。
そしてとある少女の存在が、巨大な計画を動かす最後の鍵になろうとしていることを。
File8−トロイの日本人形−──END。
コメント
1件
信愛さんのお母さんの霊気の話、ずっと気になってたんですよね。家族だからこそ聞けない距離感、すごくリアルでした。そして「偽心霊スポット作戦」の回想が可愛くてほっこり——あの頃から今の結束があるんだなって。最後の天縁教のシーンは一気に不穏な空気に。御船愛子の血って…ここからまた大きな物語が動きそうですね。続きが気になります!