エレベーターに乗り込む。鏡越しにエミリーの姿を見ていたが、エミリーの顔は少し青ざめて冷や汗をかいていた。
「っエミリー!」
「!,,,,,なに?」
【俺たち】には知らない何か。フランソワは知ってた何か。エミリーは行かない方がいいんじゃないか?
「君はフランソワが言ってた通り、もう帰った方がいい。」
「はぁ!?ここまで来て帰れって!?冗談じゃない!」
いつもの彼女には似合わない剣幕である。
「別に私とアリスはあんた達みたいなこじれた関係じゃない!世界会議や季節の変わり目でしか会わないようなあんた達みたいにね!」
「俺は、前みたいな関係に戻りたいから会いたいんじゃない。原因なんかとっくに知っているから。ただ、この時期だからこそ話したいんだ!」
「っ!ふざけないでよ!私たちがあの時,,,,,っ」
力んだ顔をして必死に叫んでいたエミリーが急に口ごもる。両手で口を抑えて顔を背ける。
「なんだい!?そこまで言ったのなら聞かせてくれよ!」
「,,,,,」
ポーンと低い音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
「何してるのよあんたたち」
「あ、アリス!?」
外にはアリスがいた。少し沈黙が続いたが、アリスはアルフレッドの手だけを引っ張り出してエミリーと2人きりでエレベーターに乗り込む。
「アリス!」
「話したいことがあるなら後にしなさい。ロビーで待っててあげるわ」
「,,,,,待っててくれるのかい?」
「レディの時間は貴重よ。306号室。早く行きなさい」
階のボタンを押し、ドアは閉まって下へ降りていった。目線を廊下側に向け、歩き出した。
306号室前にくると、錠前に血が固まったような後を見つけた。一体どれほどの体調の悪さと騒ぎを作ったのだろうと身震いしたが、ノックを3回してドアを開けた。まだ雨が降っているため、室内は暗く少し肌寒い。アーサーは反対側を向いてベッドに横たわっていた。近くまで歩いてきてベッド側にある小さな椅子に座る。
「久しぶりだねアーサー」
「,,,,,何しに来た、帰れ」
「寂しいことを言わないでくれ。」
もう言う元気もないのかゴホゴホと言いながら窓側を向いた。
「,,,,来てくれてありがとう。できればなんで今年アメリカに来たのか聞きたかったのだけれど,,,,別にいいよ。君が来たのはアリスのためだろう?」
ピクっとアーサーの肩が動いた。当たりかと思ってそのまま話を続ける。
「200年の日、君はここに来て祝ってくれたから男の問題はひとつ解決しただろう。君のことだからアリスだけを送り出すかと思えば一緒に来てるしね。それで、 ここ数日のエミリーの様子を見てやっと気がついた。明日、会えるかはわかんないけど、待ってるからね」
そのままアーサーが動くことはなく、話を終えて部屋を出ていった。ロビーに行くとエミリーやフランシス達は居らず、アリスだけが優雅に紅茶を飲んでいた。降りてきた自分に気がついたかと思えば無視をするようにまたティーカップを持ち始めた。
「ひどいなぁ。気がついたなら手を振るなりしてくれたらいいのに!」
「英国淑女はそんなお子様なことしないのよ。で?アーサーとなんか話したの?」
「まぁ、少し」
「そう。あなたが納得のいく発言ができたなら良かったじゃない。エミリーは先に帰したから自分で迎えの車呼びなさいよ」
「えっなんで先に帰しちゃったんだい!」
「帰りたそうな目をしてたからね」
「えー、」
やはり性別は違えど本性は同じだったと再確認した。少し経つとスタッフがコーヒーを運んできた。
「なぁアリス。君に聞きたいことがあるんだ」
「なぁに?」
「俺たちを見つけた時、アリスはどう思ったんだ?」
「,,,,どう?」
眉をひそめ、呆れたような顔をした。カチャッとティーカップを置く。
「300年前のこと?」
「そうさ」
「なんでそんなこと今更?アルフレッド、あなた本当に変わってるわね」
「自分の気持ちに正直なだけさ!ほら答えてくれよ!」
「あぁはいはい。そうね、あなたは覚えてるか知らないけれど、アルフレッドは私とアーサーで。エミリーは私一人だけで見つけたのよ」
「えっそうなのかい?俺とエミリー、一緒にいなかったっけ?」
「あなたは野原で気持ちよさそうにお昼寝してて、エミリーは逆に一般家庭で育てられていたの。まぁ案の定、その家庭で気味悪がられながら育ったようだけど」
「そう,,,,かい。それで?」
「,,,,なんだか照れくさいわ。やっぱりアーサーから聞きなさいよ!」
「そこまで言ったのなら君の口から言いなよ!というかアーサーから聞くのなら何日かかるんだい!?」
「う、ぐぅ,,,」
恥ずかしそうにしたが一瞬にして気持ちを落ち着かせたのかまたすぐにティーカップを手に取った。
「まあ気持ちの良い話ではないわね。そこからは男同士で喧嘩したでしょう?それに私たちが巻き込まれて私とエミリーは引き裂かれたのよ。」
「うっ、悪意は持ってなかったんだよ,,,なんにせよエミリーはつ、ついてきたしね!」
「あーはいはいまあそうね」
「ご、ごめん,,,」
「謝んなくていい。だってこれは私が昨日まで思ってたことなんだから」
「,,,え?」
コーヒーを落としそうになって慌てる。結果的に零してしまい拭いているときにまたアリスは話し始めた。
「300年前のお話よ」
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