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華井が言った通り、少しすると二人が部屋に来た。
「そろそろご飯の準備するわね、仁くん、食器の位置とか教えるね」
「はい、ありがとうございます」
「ちゃんと聞くんだぞ」
「うん」
父親が仁の肩をポンと叩く。
そこまで強くないはずなのに、軽く肩が跳ねた。
笑顔は崩さないまま。
華井がキッチンで母と会話している間、俺はリビングで、新しい父親と話していた。
「仁は頭が良くなくてね、よく失敗ばかりするんだよ。この前も洗剤を買い忘れていたりね」
父親は、華井のダメな所ばかりを話した。
良いところなんか無いみたいに。
「学校でも問題児だろう?」
「…よく、話しかけてくれる子です。元気だし、まわりを明るくできる人だと思います…思う」
なんで?何を言ってるんだろう、俺は。
アイツの悪口なんかどんどん出てくるのに、なんでわざわざ良い感じに伝えてるんだ?
キッチンの方を見ると、華井が驚いたようにこちらを見ていた。
皿洗いを手伝っているのか、手には食器。
目が合うとすぐそらされた。
「そうか、家とは大違いなんだね」
「そうなのかな」
また、悪口。
本当の父親なのに、良いところも、好きなものも、何も話さない。
ただ、失敗談や悪口だけを話す。
何か、おかしい。
はたから見れば幸せそうな家族でも、奥に何かある。
そう思っても、俺にはどうすることもできない。
「華井くんは…何か得意なこととか、ないんですか?」
そう聞くと、父親の目が少し明るくなった。
「無いんだよ、何をやってもダメダメでね?勉強はできないし、だからと言って運動も出来やしない」
ペラペラと楽しそうに笑いながら話す。
キッチンでは、どこか諦めたような笑顔の彼。
なぜかムカムカする胸に目を背けて、嫌われないようただ聞いた。
「ご飯出来たわよ~!みんなで食べましょ!」
「おお、美味しそうだね」
「んふふ、オムライス作ってみたの!」
楽しそうに料理を並べていく。
華井もその後ろから持ってくる。
持ち方がなんだかプロっぽい…バイトでもしているのだろうか。
うちの高校はバイト禁止だが。
「仁くんかなり手際が良くて助かったわ~ありがとうね?」
「!!は、い、全然…その…大丈夫です…」
少し赤くなった顔を隠すように、またキッチンへ戻る。
父親はどこか不満そうだった。
「じゃ、食べましょうか!」
「そうだね」
いつもより美味しい。
卵もきれい。
彼氏…旦那が居るからだろうか。
「とても美味しいよ。流石だね」
「うふふ、張り切っちゃった」
向かい合わせで楽しそうに話す。
子供の前では少し控えて欲しい気もするが、機嫌が良さそうなので別に良い。
「…」
「…何」
「んーん、何もない」
ふわりと笑う。
いつもと違う、嬉しそうな顔。
嫌いなはずのに、少しホッとしてしまう自分に驚く。
そんなわけない、嫌いだから。
「そうだ、明後日から二人休みでしょ?」
「ん?うん、土曜だし」
「休みです」
「私達旅行に行こうって思ってるんだけど、」
「シンくんはどうしたい?」
…あれ?
「温泉でも、と思ってるんだけど。ご飯も美味しいらしいし」
「そうそう!ちょっと遠いから、二泊くらいしようかなぁって」
おかしい。
目の前には、慣れてる、みたいな顔した華井。
なんで、コイツの名前が出ないんだよ。
「…俺は、家に居ようかな」
「え?」
「温泉は嫌いだった?」
「いや、二人での方がゆっくりできるでしょ?楽しんできて欲しいなって思って」
「真…!優しいのねっ!」
「ありがとう、次は一緒に行こうね」
みんなで、じゃない。
それを聞いていても彼は、気味悪く笑っていた。
食事が終わってお風呂も歯磨きも終わった時、寝室の話になった。
「私達は一緒に寝るけど、真と仁くんはどうする?一緒?」
「ベッド一つしかないよ」
「僕はリビングで大丈夫です、早くに目が覚めちゃうので」
「流石にダメよ!ちゃんとお布団使わなきゃ!」
「仁はソファの方がよく寝れるんだ。ね?」
「…うん、そう」
絶対違う。
なのに誰も何も言わなかった。
「じゃあ、寝ようか。おやすみ」
「おやすみ!」
「…おやすみ」
「おやすみ」
二人が二階の部屋に行くのを見届けて、少し迷ってから振り返った。
「おい」
「ん?どうしたの?」
「…なんで何も言わなかったんだよ」
「何が…あっ、ありがとね庇ってくれて。お父さんちょっと厳しくてさぁ、でも優しいから大丈夫だよ」
「ちょっと厳しいじゃねえだろ。優しい?確かに俺らには優しかった。お前に対しては違うじゃねえか」
「…なんのこと?あの人はとっても優しいよ?」
「優しいならなんで旅行の話でお前の名前出てこなかった?なんでリビングで寝かせようとしてんだよ」
「僕は…旅行苦手だし、…ソファが楽だから」
「嘘」
「…」
笑顔が少し崩れる。
「お父さんは優しい人だよ。おやすみ」
そう言って俺をリビングから出した。
絶対、危ない。
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