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「おや。どうされました?ああ。ウォル様が参られたのですね?」
「ええ。またジオンに追い出されたのよ」
「ミヒ様?そうふくれては、ジオン様に嫌われますよ。あのお方に嫌われては……」
「そうね。そうね。ユイ。お前も今さら実家に戻ることもできないし、他の侍女たちも路頭に迷ってしまうのでしょ?」
ミヒの不機嫌さに、微笑みかける、ふくよかな女――、ユイ。
ミヒの髪を無意識のうちに、いとおしそうに撫でている。
彼女は、ジオンがミヒの乳母にと連れてきた女だった。
ユイは意に沿わぬことが多い立場のミヒを哀れに思い、実の娘のように接していた。
この部屋は、ちょうどミヒの部屋の反対側、屋敷の西の棟のはずれにある。
ミヒは、ユイの部屋を自分の部屋の側にと願ってやまなかったが、ジオンはミヒの部屋の隣りに、身の回りの世話をする新しい侍女を詰めさせている。
「ユイじゃなきゃだめなことだらけなのに!」
「はいはい。それはそれは。おや?まだ御髪をとかしていないようですね。ユイがとかしましょう」
「ええ。お願い。侍女はね、まだ下手なのよ。ジオンったらまるでわかってないんだから」
「まあ。仲のおよろしいことで」
ユイは目を細めると、ミヒを座らせゆっくり光る黒髪に櫛を入れた。
「やはり、ここでしたか。ミヒ、私の食事はどうなったのでしょうね?」
戸口にウォルが立っている。
「さあ、いらっしゃい」
ウォルが手を差しのべた。
ユイは、そっとミヒを押し出す。
分を守らなければ、ここですこやかに暮らすことはできない……。
常にユイは、ミヒに言い聞かせている。それが、彼女の立場なのだと。
乳母に心配をかけまいと、ミヒは重い腰を上げ、ウォルの後に続いた。
回廊を渡りながら、ウォルはミヒを伺うが、ぷいと顔を背けるミヒをみて、ウォルは笑った。