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その落ち着いた声に
俺は「はい、それで!」と笑顔で答えた。
「仁は、いつものでいいんでしょ?」
「ああ」
「じゃ、俺は坦々麺にしようかな…瑞希くんはなにがいい?」
「んー……どれにしよ」
「あっ、瑞希くん、このチーズカレーとか美味しいよ。これにする?」
「!それがいい」
将暉が全員の好みをサクッとまとめ、店員に注文を伝えた。
しばらく待つと、湯気を立てるラーメンやカレーが次々と運ばれてきた。
俺の目の前に置かれたピリ辛ネギラーメンは、真っ赤なスープに刻みネギがたっぷりと浮かび
見た目からして食欲をそそる。
全員で「いただきます!」と手を合わせた。
ーロスープを啜ると、ピリッとした辛さが舌に広がり、奥深い旨味が追いかけてくる。
「うま……!」とつい口から漏れる。
すると俺同様に熱々の坦々麺をすすりながら、将暉さんがふと俺に話しかけてきた。
「にしても楓ちゃん、結構辛党なんだ?」
「え?それはもう!ていうか将暉さんが辛党なのも
驚きなんですけど」
麺を口に運びながら、目を丸くして答える。
将暉さんって、なんでもスマートにこなすイメージだったから、辛いもの好きってのはちょっと意外な発見だ。
「よく言われる、暑い時こそ食べたくなんない?」
「分かります!それに辛ければ辛いほどいいっていうか……」
「いや、それな?」
辛いもの好きという共通点で、俺と将暉さんは一気に盛り上がった。
辛いものって、なんでこんなに人を幸せにするんだろう。
そんな俺たちの会話を横目に、瑞希くんがブツブツと呟くのが聞こえた。
「は~あ、二人揃ってガキみたい」
見ると、瑞希くんは自分のチーズカレーをバクバクと勢いよく食べ始めている。
その様子に、え、なんか怒ってる?と一瞬思った。
「ちょっと瑞希、そんなバクバク食べたら…」
将暉さんが慌てて止めようとするが、瑞希くんは聞く耳を持たず
もくもくとカレーを頬張り続ける。
口いっぱいにカレーを詰め込む瑞希くんの姿があまりにもコミカルだった。
腹ごしらえを終えた俺たちは
次に「ふれあいどうぶつランド だっこして!ZOO!」へと向かった。
動物たちの愛らしい姿が垣間見える入り口に着くと
将暉さんが「せっかくだからこれ買おっか」と
動物に与えられるおやつ「とくとくパック」を気前よく奢ってくれた。
ほんと、将暉さんの太っ腹なところにはいつも感心する。
「仁さん、こっち!この子とか可愛いですよ!」
俺が仁さんの手を引っ張り、ウサギのそばに連れていくと、仁さんは少し緊張した様子でウサギに餌をやる。
そのぎこちない仕草が妙に愛らしく、俺はこっそり笑ってしまった。
◆◇◆◇
動物たちとのふれあいを満喫したあと、俺たちは「箱根園水族館」へと移動した。
海抜723m、日本で最も高い場所にあるこの水族館は、巨大な海水の大水槽が目玉だ。
中央にそびえる高さ7m、1,255トンの海水を湛えた水槽は自然光が差し込み、幻想的な青の世界を創り出していた。
色とりどりの魚たちがゆったりと泳ぐ姿に
俺は「綺麗……」と呟かずにはいられなかった。
隣を歩いていた仁さんも、静かに「…綺麗だな」と呟いた。
そんなにさんの方に顔を向けると一瞬目が合って、心臓がドキッと高鳴り
慌てて視線を水槽に戻した。
隣の将暉さんと瑞希くんの方からは、楽しそうな声が響いてくる。
「なんかこの金魚、瑞希っぽいな~」
将暉さんが水槽の金魚を指差して言うと、瑞希くんは眉をひそめた。
「はあ?どこが」
「ほら、他の金魚寄ってきたらぷいって体翻してさ…ツンツンしてるって感じ?The瑞希じゃん」
瑞希くんの顔がみるみる赤くなり
「そんなに俺ツンツンしてないし!」と反論。
確かに、瑞希くんのツンデレなところはちょっと金魚っぽいのかもしれない。
「えーしてるって。顔が赤くなりやすいとこも金魚の赤色と同じだよね〜」
将暉さんがニヤニヤしながら畳みかけると、瑞希くんはついに堪えきれず
「ば……っ、バカ!ほんっとバカ!」
と将暉さんの肩をバシバシ叩き始めた。
恥ずかしそうに顔を背ける瑞希くんと
「ごめんって」とはにかむ将暉のやり取りは、ほんとに仲がいいんだなと思わせてくれる。
水族館を後にした俺たちは
「海賊船・ロープウェイ乗り放題パス」を購入し
「芦ノ湖&ロープウェイからの絶景コース」を楽しむことに。
まずはロープウェイのゴンドラに乗り込む。
しかし、それに乗る前に自分が閉所恐怖症であることを思い出した。
密閉された空間はちょっと苦手だ。
しかし1人だけ残るなんてこともできないし
もういい大人だし
今回はみんなが一緒だし、平気なはず……!
と自分を励ましながら乗り込んだ。
ゴンドラがゆっくり上昇を始めると、眼下に芦ノ湖と箱根の山々が広がり、息を呑むような美しさだった。
湖面がキラキラと輝き、遠くの山々には雪がうっすらと積もっている。
なのに、景色とは裏腹に
俺の手がじわじわと震え始めた。
こんな綺麗な景色なのに、息が少しずつ苦しくな
る。
「あんたなんか震えてない?」
瑞希くんが不意に俺の異変に気づき
声をかけると、俺は「へっ?」と間の抜けた声を出してしまった。
やばい、バレた。
「いや、こ、これは違くて……っ」
慌てて震える手を背中に隠すと、仁さんが何も言わずにそっとその手を握ってくれた。
その手は大きくて、温かくて
その温もりに、緊張が少しずつほぐれていく。
仁さんは優しく俺の手を引いて、窓の外を指差した。
「楓くん、外の景色見てみ」
その言葉に促され、俺は改めて窓の外に目を向けた。
雄大な芦ノ湖と、その向こうに広がる山々の絶景。
仁さんの温かい手が俺の手を包み込み、震えが徐々に落ち着いていくのを感じた。
仁さんがそばにいてくれて、ほんと良かった。
ロープウェイを降りた後は、箱根海賊船に乗って芦ノ湖をクルーズ。
船に乗り込むと、俺たちのテンションは最高潮に。
甲板に出て、冷たい風を感じながら、湖と山々の景色を堪能した。
瑞希くん将暉さんが船首で騒いでいる横で、仁さんは静かに景色を眺めている。
それぞれの楽しみ方が、この旅の自由で楽しい雰囲気をさらに盛り上げていた。
遊び尽くした俺たちは将暉さんの車でホテルおかだに戻った。
◆◇◆◇
午前18時半頃
部屋に戻り、備え付けのアメニティである浴衣に着替えた。
3人も俺と同じ浴衣を明織っており
まるで修学旅行のような雰囲気に、少しばかり気分が高揚した。
俺たちはすぐに7階の「スカイラウンジ」へと向かった。
エレベーターの扉が開くと、食欲をそそる香りがふわっと漂ってくる。
窓の外には、すでに箱根の夜景がキラキラと輝いていた。
俺たちは迷うことなく窓側のテーブル席を確保し、ディナーバイキングを始めた。
ずらりと並んだ料理の数々に、俺たちの目は輝いた。
仁さんは真っ先に刺身コーナーへと向かい、カツオのタタキに鯛の湯霜造り、勘八といった新鮮な刺身を物色している。
将暉さんは中華の麻婆豆腐や炒飯を丁寧に盛り付けていた。
瑞希くんはサーモンやマグロの寿司に夢中になっている様子だった。
俺は、まずは温かいものが欲しくて、迷わず豚骨ラーメンのコーナーへと向かった。
湯気が立ち上るラーメン鉢を手に、席に戻る。
「んん…やっぱ豚骨最高です!」
思わず声に出すと、みんなが笑った。
「楓くんはラーメン好きだよな」
「ははっ、何歳になっても飽きませんからね」
麺を啜りながら仁さんに答えた。
豚骨ラーメンのスープが身体に染み渡って行く。
それから俺たちは好きなものを好きなだけ取り分け、和気あいあいと食事を楽しんだ。
俺は特に豚骨ラーメンとサーモンの寿司が気に入り、何度もおかわりしてしまった。
お腹いっぱいになった俺たちは、部屋に戻り、20時頃に温泉へ行くことに。
仁さんは背中にタトゥーがあるため、大浴場には入れない。
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