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『お母さん』
一週間後、立川緑病院に行く日の朝、美花は、厨房で仕込みをしている母の背中に声を掛けた。
『おはよう、美花。…………どうするか……決めたの?』
『…………』
美花は無言のまま首肯すると、雪に眼差しを向けた。
『私…………手術……受ける……』
『…………分かった。もうすぐ仕込みも終わるから、支度しておいで』
『…………うん』
緊張と安堵が混ざったような表情の娘に、母は穏やかに微笑んだ。
近い将来、美花にも恋人と呼べる存在の異性が現れるかもしれない。
彼ができたら、いずれ病気の事も伝えなければならないだろうし、美花の全てを受け止めてくれる男性だったら、ゆくゆくは性行為をする事になるだろう。
その事も踏まえて、美花は手術をする決心をした。
さらに一週間後、美花は、造膣手術を受けた。
手術方法もいくつかあり、医師の説明を受けた母娘は、美花の身体への負担が最も少ない手術方法を選択。
十日ほどで美花は退院し、術後半年間は月に一回、経過観察で外来で通院する事になった。
半年以降は、数ヶ月に一度の診察で来院する事になっている。
しばらくの間、アルバイトも休んでいたが、思いの外早く復帰でき、店長から『大変だったね、無理しないようにね』と気遣う言葉を掛けられた。
アルバイト先の店長が女性だった事、美花が真面目に仕事をしていた事もあり、店長が彼女の復帰を喜んでくれた事が、彼女にとって、とてもありがたい。
学校、アルバイト、通院、さらに趣味のDTMと、忙しい日々の高校生活を送る彼女。
高校三年間は、あっという間に過ぎ、就職先も無事に決まった美花は、卒業式が終わってからも、三月いっぱいまでアルバイトを続けた。
四月から社会人となった美花は、忙しい日々を送りつつ、合間にDTMで曲作りも継続している。
(これで…………社会人として…………一人の女性として、少しは前向きになれるかな……?)
微かな希望を胸に、充実した毎日を過ごしていく。
けれど、彼女の希望を、決定的に打ち砕かれた事が起こってしまった。
コメント
1件
何があったのか。深く傷ついてしまったような気がする😢