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🌙 Scene 33 あの頃の空気
送信してから、
しばらく指先の感触が残っていた。
胸の奥の熱は、
さっきよりも静かで、
でも確かにそこにある。
画面は動かない。
その沈黙が、
落ち着くような、
落ち着かないような、
どちらとも言えない揺れをつくる。
スマホを伏せようとして、
結局できないまま、
指先が画面の端をそっと触れた。
数分後、
ふっと震えた。
景兎先輩から。
「……嬉しいです。
有莉澄さんがそう言ってくれるの、
なんだか久しぶりで。
前みたいに話せるの、
少しだけ期待してました。」
その文を読み終えた瞬間、
胸の奥がきゅっと縮む。
“期待してました。”
その言葉は、
軽く置かれたものじゃない。
でも重すぎるわけでもなくて、
心の奥に
静かに沈んでいく。
スマホを持ち直して、
深く息を吸った。
言葉を選ぶ時間が、
少しだけ長くなる。
「……私も、
前みたいに話せたらいいなって思ってました。
こんなふうに言ってもらえるなんて、
ちょっと驚いてますけど……
嬉しいです。」
送信。
胸の奥が、
ゆっくりと跳ねる。
その跳ね方は、
痛くもなく、
苦しくもなく、
ただ温度だけが残るような感覚だった。
画面を見つめていると、
またすぐに通知が来た。
「懐かしいですね。
こうして話してると、
あの頃の空気を思い出します。
なんていうか……
落ち着きます。」
その言葉を読んだ瞬間、
胸の奥にまたひとつ、
静かな灯りがともった。
“落ち着きます。”
その一言が、
私の中の揺れを
少しだけ整えていく。
スマホを持つ手が、
さっきよりも自然だった。