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グソンは、優越の眼差しをたたえると、黒衣を、ふたたび脱ぎ捨てた。
が、はっと何かを思いだしたように、肌もあらわなまま、蝋燭の明かりを吹き消した。
目の前に現れた体躯に、ドンレは目を見張る。
キッと引き締まった体が、炎と共に消え去った。
ほんの一瞬ではあったが、みずみずしい男の裸体を目にして、宦官ではなく真の男だったらどんなに良かったろう、官位のひとつぐらい、手を尽くしついただろうにと、苦虫を噛む。
宮殿では、なにかと配下の壁が邪魔をする。
常日頃、後宮と宦官は手を組むが、彼らは何も後宮だけのものではない。
治朝に詰める文官・武官のものでもあり、宮殿に詰める皆のモノなのだ。
ゆえに、宦官は、王の勅命をもってでなければ、その身を立てることができない。
特定の誰かに取り入って、出世しないように、公平さをだすためとかで、いつの頃からか、そんな慣習が成り立っていた。
しかし、それこそが不公平だとドンレは感じている。
勅命となれば、女官長の力及ぶところではないからだ……。
さすがのドンレでも、手の及ばぬことが表にはある。
だからこそ、後宮は女だけの力でと、あらゆる男の力を締め出してきた。
別の力を誇示することで、権力の均衡は保たれる。ただの意地の張り合いであるが、政とは所詮そのようなもの。
体を這う若い肌にしがみつきながら、ドンレは思う。
自分は何か。この男にとって何なのか。
官位を与えられない女と知っていながらも、男の指は、むさぼるようにドンレの苦悩を責め続ける。
……ああ……。
ドンレは、官能の渦に引き込まれる自分に呆れた。
若い男の肌なくして、生きていけない己の性《さが》を呪った。
いずれこの肌は去っていく。
だから、南の将に、表の男に、いけしゃあしゃあと取り入っている。
……男の性を捨ててまで……。
いなくなるなら、その前に、こちらの用件を済ませてしまおう。
「……南の将に、頼んだぞ」
「そのようなことは……あとで……」
若き寵妾の発する呻きの声は、ことのほか心地良い。
ドンレは、戒めのごとくグソンの肩を甘噛んだ。
……この快楽がなくなる前に、ミヒを始末しなくては……。