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「兄ちゃんは俺と違って、そういうとこはかたいんだよなぁ」
「勿論、朝陽くんの性格なんだって分かってはいるけど……やっぱり淋しいんだよね。他人行儀な感じがして……」
その寂しそうな横顔を見つめた陽向は小さくため息をついた。
「……何で俺にはそんなこと言えるのに、兄ちゃんには言わないの?」
「言ったことはあるよ。でも……無理強いはしたくないから」
朝陽を思うからこそ踏み込めない。
だけどその優しさがかえって二人の距離を縮められずにいるのだと陽向は密かに思っていた。
「なんつーか……二人ともお互いを思いやり過ぎて空回りしてる感じなんだよな」
話を一通り聞き終えた陽向は腕を組みながらそう結論づけた。
「亜佑美サンだって、ちゃんと兄ちゃんに話したほうがいいって。言わなきゃ伝わらないこともあるし、もし一回で変わらないなら、何度でも言えばいいじゃん」
「でも……」
亜佑美が言い淀んだ、その時だった。
ガチャリ――と玄関の鍵が回る音とともに勢いよくドアが開く音が聞こえてきて、
「二人とも平気!?」
息を切らせた朝陽が慌てた様子でリビングへ駆け込んできた。
「朝陽くん!? どうしたの? 飲みに行ったんじゃ……」
驚く亜佑美に朝陽は肩で息をしながら答える。
「陽向からのメッセージを見て居ても立ってもいられなくて……。先輩には『急に弟が訪ねてきたので帰ります』って伝えてタクシーで戻ってきました」
どうやら陽向から届いた例の悪戯されたという内容のメッセージが気になり、飲みには参加せずそのまま帰ってきたらしい。
「っていうか、もうこっちに戻ってきてたんだね?」
亜佑美が目を丸くして尋ねると朝陽は頷いた。
「はい。予定より一本早い新幹線に乗れたので早く着いてはいたんです。それで店をどこにするか先輩たちと話している時に陽向からメッセージが届いて……返信を送ったんですけど、そのあと何も返ってこなかったので心配になってしまって」
その言葉を聞き陽向は慌ててスマートフォンを確認した。
「あ……悪ぃ。返信来てたの全然気づかなかった」
「まあ、何事もなかったみたいで本当に良かったよ」
朝陽は胸を撫で下ろし、ようやく表情を緩めた。
「あ、朝陽くん。チャーハンとスープがあるけど食べる?」
亜佑美が微笑みながら尋ねると朝陽もほっとしたように笑みを返した。
「ありがとうございます、いただきます……あ、その前にシャワーを浴びてきますね」
「うん、分かった。それじゃあ出てくる頃に温め直しておくね」
「お願いします」
朝陽は軽く頭を下げるとそのまま浴室へ向かった。
無事に二人の顔を見られたことに安堵しながらも、胸の奥には小さな引っ掛かりを感じていた。
朝陽の胸に引っかかっていた違和感――それは、亜佑美が思っていたほど怯えていなかったことだった。
陽向からメッセージで、《何度かインターホンを鳴らされる悪戯があった》と聞かされた時は居ても立ってもいられなかった。
だから、先輩には申し訳ないけど理由をつけて飲みの誘いまで断り急いで帰宅した。
けれど、いざ帰ってきてみると亜佑美は怖がるどころか穏やかな笑顔を浮かべていることに加えて陽向もどこか楽しそうで、二人の間にはすっかり打ち解けた空気が流れていた。
(……何か、むしろ楽しそうだった?)
大好きで大切な二人が仲良くなってくれたことは素直に嬉しい。
それなのに、胸の奥では言葉に出来ない小さな棘が引っかかったままだった。
(……いや、俺の思い過ごしだよな)
そう自分に言い聞かせるようにシャワーを浴び始めた朝陽は頭からお湯を掛けて不安ごと流していく。
それから着替えを済ませて浴室を出てリビングへ向かう廊下で、楽しげな笑い声が響いてきた。
二人は何かで盛り上がっているらしく、時折笑い声まで混じっている。
その明るい空気を耳にした瞬間、朝陽の胸が小さく痛んだ。
(考え過ぎだ……。二人とも仲良くなってくれたんだから、それでいいじゃないか)
何度もそう言い聞かせながら気持ちを切り替えるように朝陽はリビングのドアを開ける。
「何だか楽しそうですね、何を話してたんですか?」
リビングに入った朝陽は出来るだけ普段通りの明るい笑顔を浮かべながら自然な足取りで二人の輪へ加わっていった。
それから、朝陽が食事を終えたところで陽向がふと真剣な表情になった。
「実は今日亜佑美サンさんを職場に迎えに行ったらさ、取引先の男ってのが話しかけてたんだ」
その言葉に朝陽は顔を上げる。
「え?」
「そうなの。職場を出たところで急に声を掛けられて……」
亜佑美も少し困ったように説明を加えた。
「大丈夫だったんですか?」
朝陽が心配そうに尋ねると亜佑美はすぐに頷いた。
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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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コメント
1件
読んだけど、もう……もどかしくて胸がぎゅっとなるわね。お互い思いやりすぎて空回りしてる二人に陽向くんがズバッと核心突くのが気持ちよかった。それなのに、朝陽くんが二人の楽しげな空気に胸を痛めるシーンは切なすぎる……存在自体が「美しい」んだなって。亜佑美サンが思ってたより怯えてなかった違和感も気になるし、このあとの先生の「嫉妬」展開、めっちゃ楽しみにしてるわ!🔥