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『宿題』を出されてから一週間後、いつものように男は夜の時間帯に現れ、瑠衣を指名した。
「ご指名、ありがとうございます。それでは、お部屋に……ご案内致します……」
心なしか、瑠衣の声が震えているように感じる。
それに伴うように、ゆったりと歩みを進めている彼女の脚も、動揺しているのか小刻みに震えているような気がする。
特別室に向かうまでの距離が、普段男を案内する時と比べると、この日は異様に長く感じるのは気のせいだろうか。
廊下の角を曲がり、突き当たりの豪奢な特別室に辿り着くと、瑠衣はドアノブをギュッと握り締める。
一瞬、ドアを開けるのを躊躇ったが、彼女は思い切って扉を開いた。
「どうぞ。お入り下さい」
「ああ。失礼する」
男は、いつも通りに冷たい表情を見せながら特別室に入り、瑠衣も後に続いて鍵を掛けた。
瑠衣がソファーセットの前で立ち尽くしていると、男は彼女に近付き、向かい合う。
「さて、今日は『宿題の提出日』だ。今から俺が言う言葉の続きを答えろ」
瑠衣をまっすぐに見据えながら、男が低音で渋い声色で口を開いた。
「自分の演奏を追求する事、それは生涯勉強だ——」
「…………」
瑠衣は言うのを戸惑っているが、男は彼女をじっと見やりつつ、艶めいた唇が動き出すのを待っているようだった。
「この先に続く言葉は何か、答えろ」
彼女は次第に顔を俯かせ、唇が小刻みに震わせていると、男は煽るように瑠衣に答えを迫る。
「俺が誰だか分かっているのなら、答えは簡単だろう」
瑠衣は、フウっと大きくため息を吐いた後、顔を上げて呟くように辿々しく答えた。