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空音
37
シュメール
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「僕かぁ~今度の作品こそは書籍化できると思うんですよね、ぜひ先生の好評をお待ちしていますよ」
と意欲を燃やして桜子に言った、実際彼の作品を読んでも異世界の何が良いのか桜子にはさっぱり分からなかったが、そりゃぁ「異世界」でしかその容姿じゃ異性に評価されないでしょうねと心の中で思いつつ
彼女はにこやかな笑顔と激励の言葉で、才知溢れる指導を用意していると彼らに告げてカルチャーセンターの扉に鍵をかけた
生徒はまだエレベーターの前で雑談をしているが、桜子はさっさと事務室に鍵を返して帰ろうと思った時、携帯の通知音が鳴った、桜子の兄の正二からだった
―講習終わったんだろ?隣のフードコートにいる、話がある―
文面を見ただけで、既に胃が重くなって既読をつけるのも億劫だったが、無視すればもっと面倒なことになるのはわかりきっていた
桜子はため息を一つついてフードコートのあるフロアへと降りていった
:・.。. .。.:・
フードコートに足を踏み入れると、揚げ物の匂いと出汁の香りが鼻先をくすぐる、桜子は昼から何も食べていなかったことに今さらのように気づいた
うどん屋の列に並びながら桜子はメニューも見ずに「ぶっかけうどん二玉」と心の中で決めていた、兄と顔を合わせる前にせめて腹だけは満たしておきたかった
列がゆっくりと進んで天ぷらの陳列ケースの前に差し掛かると海老天、かき揚げ、野菜天、ちくわの天ぷらと湯気の向こうに並ぶそれらを見た瞬間、桜子の理性のスイッチがぷつりと切れた、トングを手に取って桜子は次々とトレーの上に天ぷらを積み上げていった
会計のこともこれから兄に何を言われるかということも、天ぷらを選ぶ間だけは頭から消えていた、時々自分は卑しいのだろうかと思うが、食べている時だけはいろんなものを忘れられるその魔力にはこの体型になってもあがらえなかった
会計を済ませて山盛りの天ぷらと、ぶっかけうどん二玉を載せたトレーを両手で捧げ持つようにして、桜子は兄の座るテーブルへと向かった
窓際の席で作業服姿のまま腕を組んでいる兄の姿はすぐに見つかった、きっと仕事の途中で工場から直接来たのだろう
―ここはショッピング・モールなのにいつも作業服なんだから―
桜子がテーブルに辿り着くよりも先に、兄の視線はトレーの上の天ぷらの山に突き刺さっていた、トレーをテーブルに置くと同時に、兄は大きく呆れと苛立ちが混ざったため息を吐き出した
「お前そんなに食うのかよ・・・相変わらずだな、お前はそういう所に欠けてるから、ただでさえ体が物語ってるのに人とメシを食う時ぐらい欲望押さえろよ!うどん一杯ぐらいにしとけ!バカが!」
機械製造会社社長の兄の久しぶりにあった開口一番がこれだった、桜子は席に着くなり箸を持つ手を止めて口を尖らせる
「た・・・沢山食べるのは人の勝手でしょ? 自分のお金で好きなもの食べてるんだし、兄さんに払ってもらってないんだし・・・迷惑かけてないんだからOKじゃない」
そう言い返しながらも桜子は思わず沢山取った天ぷらを見つめて兄と目は合わせられなかった、兄はテーブルに肘をついて身を乗り出す
「迷惑かけてないって屁理屈言って人の言う事を素直に効かないから、その年になってまで俺が説教せなならんのやろ!父さんと母さんがお前を甘やかしまくったこの結果がこれだよ!俺はお前が中学で不登校になったのを母さんが許した辺りからお前の将来を心配したもんだ!それに自分の金で好きな物を食ってるなんて講釈垂れるのは実家を出てから言え!」
コメント
2件
うんうん…たまに食欲暴走するからわかるよ😓
第7話、楽しく読ませていただきました!桜子さんが天ぷらを積み重ねるシーン、あの「理性のスイッチが切れる」感じがすごくリアルで、思わず共感してしまいました。兄・正二さんの説教の口調や、過去の不登校に触れるところから、二人の複雑な関係性がじわじわ見えてきて、ミステリータグの伏線がどう絡むのか気になります。続きが待ち遠しいです!