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「……そう、ですか。なら、いいです」
顔を俯かせた彼は、帰ってこない返事に、ギスギスした雰囲気を察してからパッと顔色を明るくさせた。
「突然ごめんなさいね! 優しい先輩だと見ていて思ったもので!」
あはは、と笑う彼に少しの苛立ちを感じたが、それでもしにがみくんを守れたことに安堵の息をついた。
目を伏せて少し脱力すると、相手の笑い声はいつの間にか止まって、真一文字の口をレジ袋の下から覗かせた。
「───じゃあ、さようなら。センパイ、受験頑張ってくださいね」
微かに微笑んだ彼は、すごいスピードで走り去っていった。少しだが日焼けもしていたし、陸上部かどこかに入っているのだろうか。
ふと隣を見れば、視線を落とすしにがみくんがいて。
「……どうしたの? もしかしてさっきの変な人との会話で疲れちゃった?」
微笑んでそう聞けば、相手はこちらに目線もくれず俯いたまま首を横に振った。
「……教室帰っても、また地獄が始まるから」
「……あー」
曖昧な返事しかできなかったのは、許してほしい。ただ、他学年に干渉できないのかと言われればそうでもない。ここの先生は優しいことで有名だ。
───まぁ、それもそうだ。
ここの学校は、どこか精神的に苦しい生徒が集まる学校なのだ。だからこそ、どれだけいじめっ子に見える生徒がいたとしても、彼らも”悪口を言いたくて言っているわけではない”人ばかりだ。
「───方法はあるんだから、試してみればいいじゃない」
しにがみくんのことをあれこれ言う人がいるけれど、結局その人たちも精神が崩れているので制御ができないだけだ。
それでいて、中学でいじめられて、その言葉を壊れた精神が吸い込んでしまって機械的に言ってしまう人もいる。
そのため、クラス以外でもそれを避けるための違うクラスがまた別棟にあるのだ。
「───いい人たちだってわかってる」
しにがみくんは、また震える声でそう言った。
「クラスにいる人は、言いたくてそういうことを言ってるわけじゃない。もちろん他のクラスも」
泣きそうなのに、必死に堪えた顔で。
「だから、もっと仲良くできるように……クラスメイトが罪悪感を抱かないように仲良くしたいんです」
熱を帯びた視線に、気圧される。
「だから、たとえ地獄でも、元は天国だったものだから! 僕はクラスメイトと仲良くしたいんです!!」
しにがみくんだって、きっと中学でいじめられたからここの学校に来た。
───すごいな。
素直に、尊敬した。輝かしい後輩だと思った。眩しい後輩だと思った。いい後輩だと思った。自分も勇気が出ればよかった。もっと、この子みたいに───レジ袋の子みたいに話しかける勇気が───これらよりすごい勇気が、あればな。
「───じゃあ、頑張ろう!」
君は、俺の言葉が全部嘘だって知ったらどうなるの?
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