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(しかしこの状況…………一体マジで何なんでしょうね?)
雲一つ無い青空の下、燦々と陽光が降り注ぐ湘南の冬の海。
天気がいいせいか、富士山と江の島がくっきりと見える。
少し離れた前方には、親友の本橋夫妻が手を繋いで歩いている。
時折立ち止まって向かい合い、豪から奈美を抱き寄せて軽く唇を重ねていた。
奏の左隣には怜がいて、先を歩く夫婦に対して目のやり場に困っている様子。
意味不明な状況と、少し前方にいる惚気全開の夫婦に八つ当たりするように、砂浜をザクザクと踏み締め、奏は俯き加減で歩いていた。
そしてなぜか、怜と奏は楽器を手にしている。
彼は最近吹き込んでなかったというテナーサックス、彼女は怜にオーバーホールしてもらったばかりのトランペット。
人がほとんどいない冬の海岸で、前を歩くバカップルのような夫婦を見て、奏は頭が痛くなりそうだった。
「しかしあの夫婦、特に豪がヤバいな」
「あそこまでいくと、もう言葉が出ませんね」
怜は、呆れながら苦笑を浮かべ、奏は白々しい様子で小さくため息を零した。
***
湘南の海岸へ来る数日前の夜、突然奈美から電話が掛かってきた。
『もしもし? 奏? 元気にしてる?』
「元気だよ。けど珍しいね。奈美からの電話なんて」
『そう? あ、ごめん、ちょっとそのまま待ってて』
電話口の向こうから、奈美が夫の豪と話している声が聞こえてきた。
内容は聞き取れないが、何かあるんだろうな、と奏は朧気に考える。
『あ、ごめんごめん。で、突然なんだけど、今度の土曜日空いてる?』
「今度の土曜日? ちょっと確認するね」
奏はバッグから手帳を取り出し予定を確認すると、幸いと言っていいのか演奏の仕事は、この土日は入っていない。
「もしもし。今度の土曜日は空いてるよ」
奏の返事に、親友は声のトーンが高くなり、鈴が転がるような声色を上げる。
『ホント!?』
そう言った後に奈美の声が急に遠くなり、すぐ近くにいると思われる彼女の夫に『奏、空いてるって!』と言っているのが電話越しに聞こえた。
(何? 何を企んでるんだ? この夫婦は……)
奏は、ストレートに思った事を親友に言った。
「ねぇ奈美。旦那さんと一緒になって、何か企んでない?」
心なしか、奏の声音が普段話す声よりも低いトーンで口から零れる。
『ふふっ……わかっちゃった?』
(いやいや、わかっちゃった? じゃないでしょ……)
半ば呆れている奏に対し、バツの悪そうな声で答える親友は、恐らく画面の向こう側でアーモンドアイを細めているだろう。
奈美はあっけらかんとしながら、そのまま話を続けた。