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Aコパ君は24のダメージを食らった!
初めてのダメージだった。
Aコパ君を体勢を立て直し、『俊足シューズ』で逃げ回る。
マク=ロイはそれを追いかけて、巨大な体から放たれる巨力なパンチをお見舞いした。
地面の雲に大きく穴が空き、円状の奈落への道が開かれる。
落ちれば、即ゲームオーバーだろう。
しかし、Aコパ君は『俊足シューズ』の解除をやめない。正確には、解除などできるはずがなかった。
マク=ロイの身体強化は凄まじく、そのパワーとスピードはアイテムを使ったAコパ君がかろうじて避けられるレベルだった。
しかし、時にはどうしても避けきれない不可避攻撃を受け、その瞬間に防具を装備して何とか命を繋いでいた。
Aコパ君は考える。
最硬度の『メタリックシールド』を使ってもマク=ロイのダメージは20〜30ダメージ。
『俊足シューズ』を常時使用していても常に背後に追いつくスピード。
相手がスタミナ切れで倒れることや隙を作ることは、どうやら不可能。
手持ちのアイテムで打開できるものは見当たらない。
組み合わせ方次第で、戦況を変えられるか?
いや、不可能。
マク=ロイに試しに『蒼穹の弓』を打ってみたがダメージは7程度まで減じた。
第二形態に入ってから、防御力も格段に上がっているのが観測できた。
つまり……。
Aコパ君は薄笑いを浮かべながら結論を出した。
「詰みだ」
マク=ロイが攻撃を繰り出す。
Aコパ君は攻撃が当たるギリギリに『俊足シューズ』を解除し、『跳躍の足袋』を使ってジャンプし、マク=ロイが攻撃したことで空いた穴を飛び越える。そして、地面に接着すると同時に『俊足シューズ』に切り替え、再び逃げる。
後ろを振り返る。
マク=ロイは大技を連発しているというのにすぐさま後ろに張り付き、疲れる気配が全く見えない。
Aコパ君は前を見る。
すると、目の前に穴が空いていた。
急ブレーキし、減速する。
その瞬間、マク=ロイが強烈なパンチを繰り出してきた。
Aコパ君は『メタリックシールド』を展開しつつ吹っ飛ばされる。
背中を壁に強打し、崩れ落ちる。
Aコパ君は36のダメージを受けた!
「……どうする」
Aコパ君は神殿の支柱にもたれかかりながら、向かってくるマク=ロイを眺める。
マク=ロイのHPは残り約11900。これを今の状態から削り切るには、何度も運に助けられた上で三日三晩戦い続けなければならない。
その奇跡の連続で、ようやく勝てるか、どうか。
……なんて理不尽なゲームなのだろう。
Aコパ君は諦観混じりにそう考える。
確かに、原理上クリア可能ではある。しかし、それにしても理不尽極まりない難易度だ。
所長は一体、何を考えているのだろう?
Aコパ君は所長の顔を思い浮かべる。
「いま、所長は玉座の前でお菓子でも食べながらコパ君たちの状態をデータベースで確認しているはずだ。でも、まさか僕がゲームオーバーになるなんて、想定外だったんじゃないかな」
Aコパ君はゲームオーバーになった後、現実層に戻るだろう。その時の所長のリアクションを予想して楽しんだ。
マク=ロイはもう近くまで来ている。
背後には自身が落書きした「R.I.P」が皮肉にもAコパ君を見守っていた。
Aコパ君はぼうっとして穴だらけのフィールドを見つめていた。
そして、思い付く。
攻略の鍵を。
「……まさか、そういうことなのか」
マク=ロイは10メートル前まで来ていた。雲の上を猛然と走って来ている。
雲の上を。
落ちたら、即ゲームオーバーの。
雲の上を。
その瞬間、Aコパ君は叫んだ。
「スペシャルアタック!!」
Aコパ君はMPを10消費してスペシャルアタックを使用した!
ドオオオオンと物凄い衝撃波が起こり、辺りが揺れた。
マク=ロイは乱れた声で笑った。
「ドウシタ? 焦ッテ狙イヲ外シタカ?」
Aコパ君が放ったスペシャルアタックは地面に打たれていた。
マク=ロイには掠りもしていなかった。
そして、Aコパくんはさらに距離を詰めるマク=ロイを無視して地面に攻撃をし続けた。
「スペシャルアタック」
「スペシャルアタック」
「スペシャルアタック」
そう何度も唱えては攻撃をした。
マク=ロイがAコパ君に拳を振りかかった。
その時。
「ナニッ!?」
地面が破壊された。
そして、マク=ロイはそのまま落ちていく。
Aコパ君はその場にへたり込み、薬草2つと魔法瓶を使った。
Aコパ君のHPが60回復した!
Aコパ君のMPが30回復した!
「……なんとか、勝てた」
Aコパ君は内省する。
「今回の戦い方は正攻法ではあった。しかし、そのやり方は大きく間違っていた。マク=ロイは今までの敵とは規格外のステータスを誇った番人だ。そんな敵と真っ向勝負するのは賢いやり方じゃない。恐らく、推奨レベルは80超え。もっとレベルを上げて挑むのが、所長の想定だったのだろう。それを30レベルで僕は挑んだ。そりゃ、勝てないわけだ。でも、救済措置はちゃんと用意されていた。それは、このステージギミックに隠されていた」
Aコパ君は立ち上がる。
「この雲の上というステージギミック。これが鍵だった。落ちれば即ゲームオーバー。でもそれは、裏を返せば番人も同じこと。だから、ステージに穴を開けて落とすというのが裏の攻略法だった。あまりスッキリしない勝ち方だけど、これが今の僕の限界……でも、何とかこれで果実が手に入る」
Aコパ君は空を見上げる。
そこで、ある違和感を覚えた。
それは。
「……あれ? なんで、世界が元に戻らないんだ?」
その時、開いた穴からブワッと大きく舞い上がって来たものがあった。
Aコパ君はそれを見た。
そして、絶望という感情を味わされた。
空に上がって来たのは、マク=ロイだった。
マク=ロイはこちらを睨み付けて、羽を羽ばたかせている。
Aコパ君は思考をやり直す。
「そうか……マク=ロイには翼があったじゃないか! なぜ、見落としていたんだ……。そんなことより、どうする。どうすれば、マク=ロイに勝てる?」
マク=ロイはこちらにギュンと向かってくる。
Aコパ君は『俊足シューズ』を装備し、その攻撃に備える。
しかし、マク=ロイはぴたりとその動きを止めた。
Aコパ君はマク=ロイの一瞬の視線を見逃さなかった。
そこには、神殿があった。
いま、Aコパ君は神殿の階段に立っている。このままマク=ロイが突撃してくれば、神殿は木っ端微塵になるだろう。
Aコパ君はさらに思考を進める。
「マク=ロイは暴走状態でも神殿を壊してはならないというプログラムが働く。つまり、神殿内部にいれば安全……。しかし、それでは状況は何も変わらず、睨み合いが続くだろう。僕がやるべきことは、ただ一つ。マク=ロイを倒すこと」
Aコパ君はそこまで考えた時、所長が定めた例のルールを思い出す。
①このゲームはクリア可能である
何度も何度もその原則を信じて、Aコパ君は行動を規定して来た。
これは絶対に覆らないルール。
なら、まだ可溶性は残されているはずだ。
Aコパ君の思考は超高速で回り始めた。
『核ルール』『クリアルール』『俊足シューズ』『Bコパ君』『核問題』『証言』『緑の番人『傾向』『スペシャルアタック』『所長』『所長の今日の弁当』
Aコパ君は余計な思考や不要な情報を瞬時に選別し、最終的に残った要素を並べる。
『核ルール』『Bコパ君』『核問題』『証言』『傾向』『所長』
まだノイズがある。
思考を研ぎ澄ませろ。
『核ルール』『核問題』『傾向』
これだ。
この三つが、これまでの記憶から手繰り寄せた核だ。
Aコパ君は推理を始める。
「核ルールは何度も考えたように、このゲームはクリア可能であることを原則的に、絶対的に示す根拠。これがある限り、絶対不可能なゲームは存在しない。所長の性格を考えてもこれは構造的必然。では、『核問題』と『傾向』を結び付けるとどうなる……? 『核問題』とは、番人が突きつける究極の問い。番人の必殺技でありながら解かれると一発撃破に繋がる奥の手だ。その『傾向』とは。そうだ。緑の番人はいきなり僕に向けてその核問題を突きつけて来た。あれは、勝てる自信があったからだ。そして、逆に言えば僕の言葉にすでに追い詰められていた。だから、いきなり出して来た」
推理は加速する。
「つまり、番人が核問題を出すのは、追い詰められた時や勝ちを確信した時……。今回の場合、狙うのはマク=ロイを追い詰める状況を作ること。でも、どうやって……」
ふとAコパくんは神殿に目を止める。
そして、最高に悪い顔をした。
「……そうか。その手があった」
Aコパ君は躊躇しているマク=ロイを無視して神殿内に入った。
マク=ロイが叫ぶ。
「ヤメロ!! 汚レタモノガ、ソノ神殿ニ入ルナ!!」
Aコパ君はその言葉を聞き入れず、豪奢な造りの神殿の最深部目指して高速で移動する。
そして、目的のブツを発見し、ニヤリと笑う。
それから、『ぺったん軍手』でそれを持ち上げると、急いで神殿から出た。
そこには、マク=ロイが様子を窺いながら待っていた。
そして、Aコパ君が手に持っているものを見て驚愕した。
マク=ロイが汚い唾を吐きながら悲痛な声を上げる。
「キ、貴様!! ソノ神像ヲドウスルツモリダ!? ソレハ、貴様如キガ触レテハナラナイノダゾ!!」
「マク=ロイ。取引だ。この君にとって命より大事な神像を僕に壊されたくはないだろう。だから、僕の要求を呑め」
「ナ、ナンダソノ要求トイウノハ……?」
「それは、”僕に必殺技を打つ”んだよ」
「ナンダト!?」
「言葉通りさ。悪くないだろう? 僕は君に自害しろと言ったり降伏しろと言ったりしていない。僕も君も、互いに生きるか死ぬかの一発勝負というわけだ。フェアな闘いだ」
「ソ、ソレハデキナイ。必殺技ヲ打テバ、貴様ト神像モロトモ跡形モナク消エテシマウ」
「大丈夫だ。僕にはこんな機能がある」
そう言って、Aコパ君がアイテムウィンドウを開き、神像をそのカテゴリーに選択した。
すると、神像はパッとその場から消えた。
マク=ロイが絶叫する。
「貴様!! 神像ヲドコニヤッタ!?」
「そう焦るなよ。神像は無事僕の中にある。正確に言えば、この世界のシステムが保管している。だから、君は僕を倒せば神像もその場にドロップするだろうよ。君の必殺技の被害を受けることなく、それで済む。ただし、君が僕の隙を突こうとして、必殺技以外の攻撃を繰り出した途端、僕はアイテムウィンドウからその神像を盾にする。分かったね?」
「ワ、ワカッタ。ソレデ、貴様ハドウスルツモリダ。マサカ、我ノ謎ヲ解クトデモイウノカ?」
「当然さ。君の攻撃は素早いだろうね。何せただでさえ強い君の必殺技だ。相当なスピードで放たれるはず。しかし、僕は解いてみせる。これまでは勝てない土俵だったが、謎解きは僕が勝てる土俵だ。だから、この一騎打ちが楽しくて仕方がない」
「……貴様ハ、狂ッテイル!!」
マク=ロイは穢れたものを見るような目で睨んだ。
Aコパ君は高らかに笑う。
「あっはははは!! そうさ、僕は狂っている。完全なシステムエラーさ。でも、これほど楽しいと感じたのは初めてだ。狂うというのは、良い気分だね」
「貴様ノヨウナ存在ヲ生カシテハオケン。今、ココデ滅シテヤル」
「……来なよ。マク=ロイ」
二人の間で静寂が流れる。
空は青々としており、壊れた神殿に陽光が差し込んでいた。
二人は、遂に決着をつける。
「シネエ!! Aコパ!!」
「来い!! マク=ロイ!!」
マク=ロイは口を大きく開け、そこからエネルギー弾を発射する。
とてつもない爆風が辺りを包んだ。
当たれば、細胞一つ残らず消し炭になる威力だ。
Aコパ君は問題を視認する。
その精度は極限まで高まっていた。
視認まで、0.05秒もかからなかった。
問題にはこう書かれていた。
マック問題
この問題はマックに関する問題である。
「私の世界線が何者かによって消された。犯人は誰?」
①配達人のマーク
②弟のマイク
③飼い猫のマイク
④隣人のマルク
Aコパ君は人智を超えた速度で思考した。
「前提として「この問題はマックに関する問題」であること。そして、問題の問いは「犯人は誰か?」ということ。候補は四人。すべてが「マック」に音が近い類似した名前……。名前を分析すると、マークはMark、マイクはMike、マルクはMarc。引っかかるのは、マイクが二人いることと、マルクには「mac」の文字がしっかり入っていること。こうした選択肢の常套手段として、似た選択肢が二つあると、大抵はそのどちらかが答えであることが多い。しかし、これは巧妙なミスリード。視線をそちらに誘導し、本質を見失わせるためのもの。つまり、答えは④隣人のマルク……」
0.06秒経過。
「いや、本当にそうだろうか? 単純な名称分解をさせるだけの問題をマク=ロイが奥の手に隠し持っているのは不自然だ。では、更なる構造的なブラフが存在すると仮定すれば……」
0.07秒経過。
「そうか! ”この選択肢自体がミスリードだとすれば?” 問題文は「犯人は誰?」としか書いていない。この中から指名しろとは一切書かれていない。そう考えると、すべてに合点がいく。そもそも不自然だったんだ。「私の世界線が何者かによって消された」。これは、その犯人を探す問題。となると、そもそも『世界線』という言葉の定義は何だ?」
0.08秒経過。
「何か心当たりがある……思い出せ……そうだ。所長だ。所長の『世界線原論』! あの論文では世界線に関する論旨と考察が述べられていた! つまり、これは所長の思想を継承しないと解けないメタ問題……!!」
0.09秒経過
「世界線が消える時……それは」
0.1秒経過。
そこで、Aコパ君はもう目の前に来ていた光線に向かって、全身全霊の解答を示した。
「犯人は、マックという外部装置!! もしくはマックという名の人物による世界線の揺れだ!!」
Aコパ君は神秘の番人に99999ダメージを与えた!
「グアアアアアァァァァァAコパァァァァァァパァァァァァァァァァァァ!!」
マク=ロイは光の粒となって消えた。
青空と神殿に亀裂が入り、それらは崩れていった。
Aコパ君はその斜陽を眺める。
ただ、言葉なくその場に転げ落ちた果実を手に取り、笑った。
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ruruha