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久し振りにアルコールを飲んで、急に走ったからか足元がふらつく。
エレベーターから降り、もう一度
「すみません。ありがとうございました。本当にここで結構ですので……」
そう伝え、加賀宮さんから強引にバッグを奪い、駅方面へ歩き出そうとした。
数歩歩いたところで溝にヒールがはまり、転びそうになったところを加賀宮さんが腕を引っ張り助けてくれた。
「あ……りがとうございます。すみません」
どうして?
カクテル二杯飲んだだけでこんなに……。
相当お酒に弱くになってる。
「大丈夫ですか?」
加賀宮さんはそのまま腕を支えてくれた。
「ちょっと休んだ方がいいと思います。僕のオフィスが近くにあるんで、そこで休憩しましょう」
オフィス?休憩?
「あの……」
「そんな状態の女性を一人で帰せませんよ。ケガでもして、旦那さんに怒られたら困るでしょ?」
何も言えなかった。
酔って転んだなんて言ったらどうなるか。
でもこの状況はマズい。
知り合いにでも見られたりして、孝介にバレたら……。
一人で帰らなきゃ。
「あの……!」
「ちょうど車が来たので」
「えっ?」
目の前に黒いセダンが止まった。
「お疲れ様です」
運転席から一人の男性が降りて来た。
私と加賀宮さんと同じくらいの年齢。
髪の毛は襟足まであって、目は大きくて可愛らしい顔立ちをしている。
「お疲れ様。ごめん、彼女を一緒に乗せるの手伝ってくれる?酔ってしまったみたいで」
「かしこまりました」
彼は、加賀宮さんの言葉に何も疑問を抱いていないようだった。
「えっ!ちょっと!」
二人がかりで強引に車に乗せられた。
「加賀宮さん!」
「運転しているのは、僕の秘書なんだ。怪しい人じゃないから安心してください」
この状況で安心なんてできない。
どうしよう、ここからドアを開けて無理やり降りるわけにもいかないし。
あたふたしているうちに、どこかのビルの地下駐車場に車は駐まった。
「着いたよ」
そう言われ、車から降りる。
ここ、どこ?
後部座席にはスモークがかかっていて、外があまり見えなかった。
そんなに走ってないから都内のはずだけど。
土地勘がない。
無理やりここまでして連れて来るって、もしかして危ない人?
逃げた方がいいの?
でも相手は二人、逃げられる自信がない。
さっきまで良い人だと思っていたのに。
不信感と恐怖が生まれる一方だ。
「そう怖がらないで?」
加賀宮さんに腕を引かれ、オートロックの建物の中に入る。
エレベーターに乗り、秘書さんが二十五階のボタンを押した。
他に誰も乗ることはなく、二十五階で止まり、三人で降りる。
いくつか部屋があったが、とある一室の前に案内され、秘書さんが数字を入力し、部屋のカギを開けた。
三人で入るのかと思っていたけど
「ありがとう。亜蘭《あらん》。ここで大丈夫だから。夜遅くに申し訳なかった」
「いえ。では、失礼いたします」
亜蘭と呼ばれた秘書さんは扉を締めた。
加賀宮さんは一体どういうつもりなの?
彼の考えていることが全然わからない。
部屋をよく見ると、大きなソファとパソコン、デスクが二つ、オフィスにしては物が少ないけど、本当に社長室みたいな雰囲気の部屋。
「歩ける?ちょっとこっちに来て。ここの窓から見る夜景がとても綺麗なんだ」
「夜景!?」
夜景なんて見ている場合じゃ……。
予想もしていなかった言葉に驚きながらも、彼の後をついていく。
大きな窓から見える景色は
「キレイ……」
そう呟いてしまうほどネオンで輝いていた。
いや、キレイだけど。
こんなところで夜景なんて見ている場合ではない。
「加賀宮さん、もう本当に大丈夫ですから。ありがとうございました」
私は彼に一言伝え、部屋から出ようと振り返った。
が――。
彼に腕を引かれ、止められた。
「加賀宮さん?」
「今日は帰さないよ」
「えっ?」
彼はクスっと笑ったかと思うと
「もうこんな演技止めるね?」
そう言ってメガネを外し、近くのデスクの上に投げた。
「こんな風に《《また》》会えると思ってなかった。まぁ、《《美月》》は《《俺》》のことなんて覚えてないと思うけど……?」
私、加賀宮さんと会ったことがあるの?
彼に名前を伝えてない……よね!?
ていうか、さっきと話し方とか全然違う。
彼が私との距離を詰める。
右手の手首を彼に掴まれていて離してはくれないし。
一歩下がるごとに、壁際に追い込まれていく。
ついに壁に背中がついてしまった。
近距離で視線が合う。
目を逸らすと、顎を掴まれ
「んんっ……」
強引にキスをされた。
片手で彼を押し返そうとするも、彼の身体は動かない。
「はっ……んっ……」
息ができない。力も入らない。
「俺がさっき《《お前》》に飲ませたカクテル、Love Potionってカクテルなんだ。媚薬とか惚れ薬とか……。そんな風に言われてる。その効果は酒と一緒でしばらく続くから。ね?キスだけで身体がもう反応してるだろ?」
なに、それ。
媚薬とか……。惚れ薬とか……。
そんなの現実に存在するわけがない!
「そ……んなの……ウソよ……。あるわけがない」
彼は私の耳朶をカプっと噛んだ。
「んぁ……!」
なんでこんなにゾクゾクするの?
「ほら?」
耳元で彼が一言囁いた。
声と息が耳に残り、それだけで力が抜ける。
「抵抗できなくなった?」
私の手はもう彼を押し退けていなかった。
それどころか、彼にしがみついている。
「止めて?」
「止めていいの……?ま、止めないけど」
彼は再び唇を合わせてきた。
舌が入ってきて……。
「ふっ……ん……」
どうして?もう怖くない。
押さえられている手首も痛くはないし、キスだって強引だけど、どこか優しくて……。
「はっ……」
どのくらいの間、キスをしていただろう。
身体は抵抗することも止め、彼を受け容れていた。
気づいたら彼のワイシャツを掴み、自分から少し顔を上げ、彼にキスを求めていた。
「んん……」
本当に媚薬とか、惚れ薬とか、この世に存在するのかな。
これは彼にそんなカクテルを飲まされたから。薬の効果なんだ。
だからこんなに――。
「も……。ダメ……。立ってられない」