ある日、バーで飲んでいると、隣りの男が帰ろうとしていた。ふと、俺はその男が忘れ物をしていることに気づいた。
「あ、ちょっと。荷物忘れてませんか?」
「ああ、いけない。ありがとうございました」
数日後、またその男と同じバーであった。向こうもこちらを覚えていたようで、
「ああ、あのときはどうも。助かりました。今日はお礼にいっぱいおごらせてください」
といってきた。
「いや、そんな、大したことしてないですから……」
「いやいや、実はあのときの荷物、苦労して手に入れたものだったんですよ。それで浮かれて呑んで、あやうくその肝心な荷物を忘れそうになってしまっていた、というわけで……。ですからまあ、本当に助かったんですよ。だからぜひ」
あんまり断るのもと思って、いっぱい御馳走になることにした。そのあとも会話が弾み、気になった俺は荷物の中身について聞いてみた。
「ああ、あなたには特別にお教えしましょう。実はあれは、ある映像のデータでしてね。今、スマホでも見られるようにしているのですが、ご覧になりますか?」
「えっ、なにか、ヤバい映像なんじゃないですよね?」
「うーん、ある意味では「ヤバい映像」なんですが、映っているもの自体は、なんてことない映像ですよ」
興味をひかれた俺は、見てみることにした。
その映像には、女の子が映っていた。年齢は20歳前後、女子大生といったところだろうか。場所はどこかのマンションの一室のようで、おそらくこの女の子がカメラを設置し、録画を開始したところのようだった。女の子がもう一台カメラを設置しているところも映っていた。それが終わると、女の子は満足した様子で部屋から出て行った。
「ここからはだいぶ時間が空くので、編集して早送りしています。まあ、待っててください」
しばらくの間、画面には何も映っていない状態が続いた。
「あ、そろそろですね……」
すると、部屋の扉が開き、謎の中年男性が入ってきた。年齢的に先ほどのこの彼氏とかではなさそうだ。父親とかだろうか? しかし、その男は、おもむろにタンスの引き出しを開け、下着などを取り出し始めた。
「えっ、どういうことですか? このおじさんは誰なんです?」
「まあまあ、焦らずに」
その後も男の不審な行動は続いた。俺はなんとなく事情が呑み込めてきた。この男はさっきの女の子のストーカーかなんかで、女の子はその存在に気づき、確かめるためにビデオカメラをセットしたのだろう。
と、男が突然何かに気づき、慌てた様子で、部屋のクローゼットの中に隠れた。するとすぐに女の子が部屋に帰ってきた。先ほどの男は足音か何かに気づいて急いで隠れたのだろう。女の子はカメラに近づき……そこで映像は終わっていた。
「これって、もしかして、有名な「意味が分ると怖い話」のやつじゃあないですか?」
「そんなんですよ! あの話は実際に映像が残されていたわけです!」
「なるほど、それは貴重な映像ですね」
「いや、実はこれは前半なんです」
「えっ?」
「先ほど、女の子がもうひとつカメラを設置していましたよね。おそらく取りこぼしがないように、複数カメラを設置したのでしょう。……実はね、そっちの映像も入手できたんですよ。ご覧になります?」
俺は好奇心を抑えきれず、見せてもらうことにした。
画像は、さっきの続きからになっていた。その前のところは別のカメラの内容とかぶるのでカットしたのだろう。女の子は、設置したカメラを取り出し、映像を確認し始めた。しばらくは何も映っていないので、早送りしていた。が、やがて、男が入ってきた場面に来たのだろう。画面の中の女の子は「やっぱり!」といった。それからしばらくは男の行為を眺めて、「いやぁ……」とか「げぇ」とかいっていた。が、やがて、男が隠れ、自分が入ってきたシーンを確認すると……。
「えっ、これって……」
女の子が事実に気づいた瞬間、クローゼットの中から男が飛び出し、女の子につかみかかった。そして女の子の口を布でふさぐと、男は女の子の服を引きちぎり……。
「ちょっと待って!」
俺は思わず映像を止めてしまった。
「えっ、どうしたんですか? もうちょい続きがあるのに」
「……ちょっとこれはヤバいんじゃないですか?」
俺は平静を装いながらそう返したが、内心はバクバクだった。まさかあの女の子がこんな目に遭っていたなんて……。
「まあ確かに、この女の子はこの後、ひどい目に遭わされたわけですが……。でも、見たくないですか?ここからが本番なんですよ?」
「いや、でも……」
俺はなんとか断りたかったが……。
「まあまあ、そう言わずに」
結局、俺は映像の続きを見ることになってしまった……。
女の子の服をはぎとった男は、今度は自分の服を脱ぎ始めた。そして女の子に覆いかぶさると、行為を始めた。女の子は必死で抵抗しようとするが、簡単に取り押さえられ、両手を縛られてしまった。そうなるともう男は好き放題で、まず女の子の乳首をねっとりと弄び始めた。女の子はそれに反応し、だんだんと息が荒くなり始めた。男はそれをみるとさらに調子に乗り、今度はスカートをまくり上げた。そしてパンツの上から指で弄り始めたが……すぐに面倒になったのか、男の手はパンツの中に入り込み、直接いじり始めた。しばらく続けると、女の子の秘所からは蜜が溢れてきた。
すると男は自分のズボンを脱ぎ始めると、大きくなった男の象徴をさらけ出した。そして、それの先端を女の子の秘所に当てがうと、一気に挿入した。その瞬間、「あうっ」と女の子が声を漏らすのが聞こえた。
それから男は激しく腰を動かし始めた。女の子は最初こそ痛みに顔をゆがめていたが……しばらく続けるうちに少しずつ気持ちよくなってきたのだろうか。その口からは次第に「あっ……」とか「んっ……」とかいう声が漏れ出し、やがてそれは喘ぎ声に変わっていった。
そしてほどなくして……男の腰の動きが止まったかと思うと、男根が引き抜かれた。どうやら達したようだ。それから男は呆然としている女の子を抱きかかえた。女の子ははっとした顔をして、暴れて抵抗したが、男は構わず、そのまま女の子を連れて行ってしまった……。
「映像はここまでです。正確に言うと、この後もカメラの充電が切れるまで続いているのですが、まあそれは、ずっと部屋が映っているだけなので、見てもしかたないのでカットしてあります」
「……」
「どうです? なかなか刺激的な映像でしょう?」
「……いや、でも、これって犯罪ですよね。警察に通報しないと」
「いえ、被害者がどこの誰かわかりませんし、いつの出来事かもわかりません。それに、そもそもこれ、作り物かもしれない。まあ警察はまっとうにとりあつかってくれませんよ」
「そんなもんなんですかねぇ」
「まあ、こういった映像を売り買いしているアンダーグラウンドなサイトがあるのですが、そこに行けばもっといろんな映像が手に入ると思いますよ。では、また何か面白いものを見つけたらお見せしましょう」
そういうとその男は席を立ち、どこかに行ってしまった……。(終り)