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「す、すみません。はやくえっちしたいですよね……」
「あぁ、待てまて。真剣な話をしたがってる女が居るのに、耳を塞いだりしない。大事な女ならなおさらな」
「だ、大事な女……えヘヘ」
――意外なところで意外な言葉が聞けて、なんか得しちゃったぁ。
「で、何を聞きたいんだ」
「その……こっちの方が本題なんですけど……」
「そこまで言ったんだ。遠慮なく聞くといい」
「ありがとうございます。その……魔王さまが転生する前とか、転生してから村を焼かれた時のこととか……教えてください!」
「……なぜだ」
「うっ……」
微妙な間があったから、やっぱり教えてくれないかもしれない。
でも……今じゃないともう聞けないし、そしたら魔王さまがうなされる理由が、ずっと分からないままになってしまう。
「だ、だって! 魔王さまがうなされた時にお慰めしたいし! お辛い気持ちを少しでもお支えしたいし! だから、です!」
「…………チッ。俺も焼きが回ったか」
誰に聞かれようと、話す気などなかったんだがな。と、そう言いながら、魔王さまは大きな手で顔を覆った。
焼きが回ったと言ったのは、それでも私には話しても良いと、そう思ったかららしかった。
――でも。
そうして教えてくださった話は……聞いているこちらが後悔するような、凄惨なものだった。
前世は生まれた時代が悪く、土地も痩せていて、戦がそこかしらで起きて、田舎の小さな村は野盗になった敗残兵が荒らし、ひどい時には食料だけでなく、若い娘も攫われた。
そんな過酷な環境でも、人だった頃の魔王さまは、他人のために何かを施せる人だった。
でも、まだ子供だったのもあって付け込まれて苦しみ、挙句の果てには騙され、殺された。
転生後の生活は、打って変わって天国のような生活だったらしいけれど、それも長くは続かず……人間のせいで踏みにじられ、家族も村の人も全員、殺された上に何もかもを焼かれた。
うなされていたのは、その家族を殺された時の夢を見ている時らしい。
優しい両親と、それに輪をかけて優しいお姉さんが居たけれど……。
その家族を失ったことを……何も出来ない子供だったことが恨めしくて、時折、夢に見るのだという。
「その姉というのがな、実はお前に似ている。姉には泣き黒子があったが、お前にはない。そのくらいしか違わないほどに似ている」
「えっ、じゃあ、お姉様と私を、重ねていらっしゃったり……しますか……」
もしそうなら、何か、フクザツ――。
「いや、そうは言ったものの三百年も前の話だ。出会った最初にそう思っただけで、実際はどうかは分からん。記憶を頼りに肖像画を描かせたこともあったが、理想のようなものも混じっているだろうしな」
――えっ、じゃあ……。
それに似ているってことは、私が魔王さまの、理想に近いということなのでは……?
「あ、あの。私ってその、理想のお姉様に似て、か、かわいい……ですか?」
「あ? 言っておくが、性格は全く似ていないぞ。それに姉は聡明だったが、お前は少し足りない。全くの別人だよ」
「ひ……ひど、ひどくないですぅ?」
「ハハハハ! だが、俺はお前のようなからかい甲斐のある女が好きらしい。いつの間にか、俺の側に居なくては落ち着かんほどにな」
「わふ……ほ、ほんとですか? ま、魔王さまったら……もぅ……」
――好きとか、初めて言ってもらえたのでは……?
どうしよう。魔王さまの辛いお話を聞いて、慰めて差し上げたいのに……ひとりで喜んじゃってる。
「だから俺は……お前を失うのが恐ろしい。恐れるあまり、夢の中で姉や家族を失った時のことを思い出してしまうのだろう」
――もしかして、最初に私を鍛え上げたのは、少しでもそのリスクを下げるため?
私なんてなんでもないというそぶりで、初めからものすごく気にかけてくれてて、だから竜王さんのことも従魔にさせたんだとか?
でも、そんなことより……心配をかけているからこそ、そういう夢を見させているに違いない。
「……もしかして私、王国に行かない方が安心できますか?」
今ならもう、治癒魔法も研究できたし、リズに会うために行った理由も、解消したようなものだし、王国に行く必要はなくなった。
「阿呆。黒竜王グィルテを従魔にさせたんだぞ、そんな心配はしていない。だがしかし、俺にもなかなかに軟弱な部分が残ってるじゃないかと思ってな。それが悔しかった。だからこんな事、お前には口が裂けても言うまいと思っていたが」
やっぱり、最初に竜王さんを瀕死にしたのも、計算だったんだ……。
「どうして教えてくださったんですか?」
「お前が泣きそうな顔で聞くからだろうが。心配をかけ過ぎて、心を病まれても嫌だからな」
「えっ? 私、そんな顔して聞いてましたか? でも魔王さま……。ありがとうございます。こんなに大切なお話を、お聞かせくださって」
「ああ。その分しっかり鳴かせてやろうと思う」
――あれ? いきなりその流れにするの?
ってもう、押し倒されてるし?
「えっ、あ、ちょっと、待っ――。今これから、どれだけ私が魔王さまを愛しているか、言うところで」
「それはこのまま聞こうじゃないか」
「イヤっ、そうじゃなくてっ、あぁもぅ――」
こうなっちゃうと、止まらないんだから……。