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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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次の週、理紗子はマンションの前で健吾を待っていた。


今日は生配信中に嫌がらせをしてくる人物を撃退したお礼に健吾が理紗子に服をプレゼントしてくれるらしい。

ちょうど理紗子は講師の仕事があるので健吾はその時に着る服を美和の店で買ってくれると言った。

大した事はしていないのにまた服を買ってもらうのは申し訳ないと理紗子は何度も断ったが健吾が引き下がらないので仕方なく理紗子が折れる。


その時健吾の車が停まったので理紗子は助手席に乗り込んだ。

二人が会うのは久しぶりなので健吾はニコニコと嬉しそうだ。


「会うのは一週間ぶりだな」

「うん。私も小説に集中してたけどケンちゃんも相場が忙しかったんだもんね。もう大丈夫なの?」

「ああ、アメリカの方で色々あったからな。でも漸く落ち着いたよ。それにしても坂本には参ったな」

「うん。私が書いたコメントを見て逃げたって事は弘人だった確率が高いわよね?」

「だな。今まであんな変な奴来た事がなかったしなぁ。だからあいつの可能性は極めて高いと思うよ」

「それにしても執着心が凄いよね。あんな人だったのかと今になって呆れちゃう」


理紗子はハァーッとため息をついた。


「まあそんな奴の事は気にするだけ時間の無駄だ。それより理紗子、今日はどんな服にするか考えてきたか?」


健吾はニコニコと楽しそうに聞いた。


(ああ、この人はなんて常にプラスオーラを放つのだろう? 弘人とは大違いだわ)


理紗子はそんな風に思いながら健吾の横顔を見つめる。それに気付いた健吾が言った。


「どうした? 俺の事がそんなに好きか?」

「ケンちゃん自惚れ過ぎ―っ」


理紗子はドギマギしながら慌てて誤魔化す。


「ところで講義の内容は決まったのか?」

「講義じゃなくて対談形式なんだって。話す内容については先日詳細が送られてきたから大体の概要はまとめたわ」

「講師の経験は俺の方が先輩だからな。何かわからない事があったらいつでもアドバイスしてやるぞ」

「ハッ、健吾大先生頼りにしていますぅーーー」


理紗子が大袈裟に言って頭を下げたので健吾は声を出して笑った。


銀座へ到着すると早速美和の店に向かった。


「あらー健ちゃん理紗子さんいらっしゃーい! パーティーの時はありがとう」

「また来たぞー」

「その節はお世話になりました」

「あの日は最後あんなになっちゃってごめんなさいねぇ。あの後原口さんどうしているのかしら?」

「あれから特に噂は聞かないけどな」

「あら、やっぱり? きっと恥ずかしくて表には出て来れないんじゃない? 主人も言い過ぎなのよねぇー」

「いや、あれで良かったと思うよ。あの二人が堂々と不倫をしているのを見てみんなうんざりしてたから」

「そうぉ? それならいいんだけど」


それから美和はニッコリして理紗子の方を向くと聞いた。


「で、今日はどんな場所に着て行くお洋服かしら?」

「理紗子が前に勤めていた会社でセミナー講師をする事になったからそれにふさわしい服でよろしく!」

「あら! 講師なんてすごいじゃない! やっぱり有名作家ともなるとお声がかかるのねぇ」

「いえ昔勤めていた会社なのできっと気軽に声をかけやすかったんだと思いますよ」

「それにしても講師なんて凄いじゃない? で、講義のテーマみたいなのってあるの?」

「女性社員を対象にしたセミナーで『夢を叶える』がテーマなんです」

「あらー理紗子さんにピッタリのテーマね。だって会社員から小説家に見事転身したんだから」

「いえいえお恥ずかしいです。あ、ただ会社には今もまだ私の同期や同僚がいるのであまり華美だったり浮いた服装は避けたいかなーと」

「承知しました。あまり華美過ぎず目立ち過ぎずでも品のある有名女流作家に相応しい服ってとこね。オッケー、じゃあ理紗子さんこっちにいらして」


美和は前回と同じように理紗子を奥へ連れて行った。


健吾はいつものように壁際のソファーへ腰を下ろすとスマホで相場のチェックをする。

そして特に問題がない事がわかると前回と同じように理紗子の呟きサイトをチェックする。

沖縄から戻ってからずっと続いていた麗奈の嫌がらせコメントもパーティーの騒動以降ぱったりとなくなっていた。

あれだけ大きな恥をかいたので相当懲りたのだろう。

しかしあの腐った根性の麗奈の事だからまたいつ仕掛けてくるかもわからない。だから健吾は今もこうしてチェックを欠かさなかった。


その時店のドアが開いて新しい客が入って来た。健吾は気にする事なくスマホを見続けている。

新しく入って来た客は女性二人組だった。

どちらも背が高くかなりスタイルが良い。年の頃は32~3歳だろうか?

二人とも華やかな美女でハイヒールにミニワンピースという似たような格好をしていた。

もちろんメイクもネイルも完璧で身に着けているジュエリーやバッグもハイブランドの物で統一されていた。


その時片方の女性が言った。


「健吾?」


健吾が顔を上げるとそこには二年前に付き合っていた加奈子が立っていた。

加奈子の横に立つ女性は健吾を見てうっとりとした表情をしている。


「久しぶりだな」

「元気そうね。今どこにいるの? 引っ越したんでしょう?」

「ああ、今は違う街に住んでる」

「ふぅん、今の場所は教えてくれないんだ」

「ハハッ、特に教える必要もないだろう?」

「…………..」


女性はムッとして押し黙る。しかしすぐに口を開いた。


「あの時は突然一方的に別れようって言われて全然意味がわからなかったわ。だから私はあなたと別れたつもりはなくってよ?」

「いやあの時君には他にも男がいたろう? だから俺と切れても特に問題なかったはずだけど?」

「あら、私が他の男といちゃついていたのが別れの原因?」

「いや違う。あの時の俺は本心から君と別れたかったんだよ」

「素直じゃないのね」

「本当の事だ。それにもうすべて終わった事だ」


健吾は穏やかに言うと加奈子の女友達の方をチラリと見て言った。


「お友達を待たせたら可哀想だろう?」


健吾はやんわりと出て行くように仕向けた。


「ふぅん…ま、いいわ。じゃあ後で電話するわね」


加奈子はくるりと後ろを向くと店の出口へ向かった。

健吾にうっとりとしていた女友達は慌てて加奈子の後を追いかける。


その時理紗子の声が響いた。


「ケンちゃーん、これどうぉ? ちょっとエレガント過ぎるかなぁ?」


理紗子はそう言って奥から歩いて来る。

その声にピクッと反応した加奈子が足を止める。そして後ろを振り返った。

するとそこにはマロンブラウンの上品なワンピースを着た理紗子が立っていた。


ワンピースは前身頃の中心に綺麗なタックが入っていてベルト付近まで伸びている。

友布で作られたベルトは細くキュッと締まり理紗子の華奢なウエストを更にスリムに見せていた。

衿は左右に広く開いたボートネックで理紗子の鎖骨と細い首を美しく見せている。

袖はゆったりと流れるようなラインで袖口はキュッとすぼまり腕の細さを強調していた。


健吾は理紗子を見た途端すっかり目がハートマークになっている。

そんな健吾に加奈子はムッとしている。

加奈子は苛立った様子で値踏みするように理紗子の全身をチェックする。

そして理紗子がプロのモデルではないと判断すると馬鹿にしたように鼻で笑った。


「健吾の趣味も落ちたものねぇ」


吐き捨てるように言うと加奈子はヒールの音をカツカツと響かせながら店の外へ出て行った。


理紗子は二人の間に漂う空気にただならぬものを感じていた。

もしかしたら自分はこの場に出て来てはいけなかったのだろうか? 理紗子が戸惑っていると何も知らない美和が後ろから来て明るい声で話し始める。


「これでどう? このワンピースは紺色もあるんだけどそれだとかしこまり過ぎちゃって入園式のママみたいになっちゃうからこっちのマロンブラウンの方がいいかなって。この色理紗子さんによく似合うのよねぇ。講師って言うと普通スーツっていうイメージだけどそこをあえて外したのがミソなの。理紗子さんはクリエイティブな職業だからこういう感じでいいかなって思うんだけれど健ちゃん、どうぉ?」

「とても素敵だと思うよ。よく似合ってる。理紗子はどうだ? 気に入ったか?」

「う、うん、とっても」

「じゃあ美和さんこれをいただくよ」


健吾はカードを美和に渡す。


「はーいいつもありがとうございまーす! あ、理紗子さん、これに合わせる靴は黒がいいと思うわ。一応研修という場だからきちんとしたイメージがいいかもしれないわ」

「黒のヒールはいくつか持っているので大丈夫です」

「じゃあ今日は靴は買わなくてもOKね! 講師は立ちっぱなしかもしれないし履き慣れた靴の方が安心ね! じゃ、お会計行って来まーす」


美和はレジへと向かった。

なんとなく気まずい空気のまま理紗子はチラッと健吾を見る。


「大丈夫?」

「あ、うん、特に問題はないよ」


そう言いつつ健吾は心ここにあらずのようだった。


(さっきの美女ってもしかしてケンちゃんの元カノ?)


理紗子は女の直感でそう思った。








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コメント

3

ユーザー

また自意識過剰な元カノが出現....😱 二人は既に別れているし、健吾さんの気持ちが揺らぐことは100%あり得ないけれど🤔 でも 健吾さん、 元カレに裏切られ傷つけられた過去を持つ理紗子ちゃんには きちんと真実を話して 安心させてあげてね🍀

ユーザー

やっと麗奈の件が片付いたのにまた元カノ…理沙ちゃんにも会わせたくなかった後悔の念…!? 理沙ちゃんも空気でわかるよね💧その上健吾の心、ここにあらずだと理沙ちゃんと健吾の考えは違うと思うから、そこは2人とも言葉で伝えて🥺 別れた気がない元カノも気持ちが離れたら元なんだし、住所も教えなくていい。ハート目😍で理沙ちゃんを見てる健吾だから、不要なトラブルで理沙ちゃんに飛び火しないようにガードしてね、健吾‼️

ユーザー

あららとんでもない自意識過剰の元カノのご登場ですこと😳 理紗子ちゃんやっぱり気になるよねぇ😿 健吾の心ここにあらずは気になるけど、多分会いたくなかった、理紗子ちゃんに知られたくなかったんじゃないかなぁ〜🤔今の住まい、どの辺りかも教える必要ないって言ってたしね!!! それにステキなワンピース姿の理紗子ちゃんを見て、安定のお目目がハートマーク(💗ᵕ💗)だし「俺の事がそんなに好きか?」とか恥ずかしげもなくストレートに聞いちゃうくらいだもんね🤭 でも気になるなら聞いちゃおう٩(๑•o•๑)وオーッ‼

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