第3話:はじめての青い料理
🏥 シーン1:人間、来訪す
昼時の《碧のごはん処(ミドリ)》に、見慣れない白衣の姿がひとつ。
男の名はシロウ。かつてフラクタル研究機関に勤めていた技術者。現在は、碧族に関する医療技術の中立支援者として動いている。
白衣の下に古い端末、首には検査器。黒縁の眼鏡越しに、店内を不安げに見回す。
「……青く、光ってる。これが噂の“碧素料理”……」
🧑🍳 シーン2:青、食べられるように
カウンターの奥から、タエコがにこっと笑って現れる。
「お客さん、人間やな? 初めてかいな? だいじょーぶや、うちは“中和フラクタル処理済み”のメニューも置いとるよ」
すずかAIが柔らかく告げる。
「非碧族体質、確認。消化補助・精神共鳴緩和処理を実行します」
タエコは調理端末に向かってコードを入力する。
《FRACTAL_COOK_MODE=HUMAN_ADAPT》《FLAVOR=EASE》
青く光るオムライス、碧素スチームの野菜、そして記憶共鳴効果を抑えた小鉢。
これが“人間でも食べられる碧料理”だ。
「“やさしめ碧定食”、おまたせ〜!」
🥢 シーン3:ふと、味から過去へ
最初の一口に、シロウは顔をしかめる。
だが、二口目。三口目。
「……これ、あのときの、味だ」
彼の記憶に浮かぶのは、十年前。研究所に潜伏していた碧族の青年と、ひととき交わした炊き込みご飯。
“味”が引き金となって、忘れかけていた出会いが、ゆっくりと脳裏にほどけていく。
彼は箸を置き、深く、頭を下げた。
「……これは、確かに“心に届く料理”だ。ありがとう」
タエコは笑う。
「ほな、次はもっとガッツリいこか。碧族でも人間でも、食卓では“腹ぺこ”が平等や」
はじめての青い料理が、あの日の記憶を、やさしく照らした。
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