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「唯一、燎子と一緒だったのは体育の授業くらいかな。2クラス合同だったから」
「何年のとき?」
「2年と……3年もかな」
「接点はそのくらい?」
「そうだね」
よくよく考えれば、同じクラスにもなったことない私に、なぜそれほどまでの憎悪を持ったのだろう。考えれば考えるほど、不思議だ。
「で、彼氏とられたのが……」
「2年の終わりかな」
その時のことはものすごくよく覚えている。きれいな長い黒髪の女の子が、つい前日まで自分の彼氏だった人の腕に絡みついている姿は衝撃的すぎた。
「しゃべったこともないってこと?」
「あんまりないかなぁ……」
「まあ……花音としてはそれくらいの記憶なんだね」
「うん。恨みを買うようなことはしてないと思うんだけど」
それでも現実はこうなのだから、なにか原因があるはず。篤人もうーんと首を傾げる。「接点は高校の時だけ?」
そう訊かれて、あー……と口を噤む。
「他にも?」
「うーん、それがね」
燎子と私は同じ塾に通っていた。どうやら志望校は同じだったらしく、その大学の試験の傾向と対策の講義ではよく一緒になった。講義中、燎子とよく目が合っていたような気がする。
「同じ大学いったんだ」
「ううん。私は落ちちゃったからね。でも燎子はその大学に合格してミスキャンパスになったんだよ」
「へー……」
「アナウンサー志望だったみたい」
そうなんだ、と篤人はお茶をすする。
「名古屋のミスキャンパスの集まる大会があったんだけど、そのときにそうスピーチしてた」
「んんん? 花音もその大会に参加したの?」
「うん、頼まれて仕方なくだけど」
それがどうかした? と首を傾げる。
「結果は?」
「そのときは私が東海ブロック優勝した。燎子は次の年に優勝してたよ」
ミスキャンパスの東海ブロック大会。私が2回生のときに優勝し、燎子は3回生のときに優勝した。前年度優勝者が、次年度のプレゼンターをするため、私も会場で燎子の優勝を見届けていた。
「東海ブロックってことは、全国大会があった?」
「そうそう」
「どうだったの?」
「私は準ミス。燎子は……わかんないな」
「……調べようか」
篤人が、スマホで検索を始めると、あっと声を上げた。「美濃さんは奨励賞って書いてある」
「そうなんだ」
「……ここかな」
篤人は腕を組んで天井を仰ぐ。
「もっと別の理由のような気がしてたんだけど……」
「ん?」
「……また同じこと繰り返してくるよ、きっと」
うん、と小さく頷く。燎子の次のアクションが怖い。そんな気持ちが顔を曇らせる。
「次はたぶん、俺に何かしかけてくるはず」
「あー……私の彼氏を取るのが、燎子の目的ってことだよね?」
「言い寄ってきたらこっちのもんだよ」
相変わらず自信満々に、篤人は話を進める。
「俺は美濃さんには興味ないし、他の男とは違うから」
「……? う、うん」
「契約はちゃんと守るよ」
復讐遂行はきちんとする、という意味だろう。でも実際にはどうやって退職まで持っていくのだろうか。
「ねえ、訊いてもいい?」
「うん」
「第三幕ってどんな感じなの?」
「ないしょ」
私がむうっとほほを膨らませると、篤人は意地悪く笑う。
「今後の流れ、知りたい?」
「うんうん。いまは二幕でしょ? そのあとは?」
「美濃さんが退職するまでが二幕」
「えっ? 三幕構成って言ってなかった? 燎子が退職したら終わりじゃないの?」
「よく覚えてたね」
二幕はむこう次第だと言われて、ますます不思議だ。
「三幕目が俺的にはメインだから」
「えっ?」
「花音は、美濃さんがなぜここまで嫌がらせしてくるのか、理由知りたい?」
「……」
話を逸らされたような気がしたが、ぐっと息をのむ。それを知ることは恐怖だ。でも、私はその理由を知りたい。
なぜここまでされなきゃいけないのか、それがどんな理由であったとしても、知っておきたいと思う。
「私は、理由が知りたい」