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桜城
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#恋愛
ばたっちゅ
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#ファンタジー
comi
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第50話、読了しました……! イザリオが“ただ倒すためじゃない”って双剣に祈りを乗せたシーン、すごく好きです。エルファーナの白魔法が影を照らして本体を炙り出す流れも、重くて美しかった。 最後、クルサが“自分の島に残る”って選んだのも、誇りと愛情が感じられて、じんわりしました。ヒロノゼウスの落ち着いた判断も、すごく頼もしかったです。 闇を抱えながらも、ちゃんと救いがある物語、本当に素敵でした……🥀🌙
クルサ・ガルヴァ 影王相(シャドウ・ロードフォーム 通称 シャドウ)・第二変質。
影王相がさらに別の何かへと変質していく。
赤黒い霧という“意思”が、クルサ・ガルヴァという一つの器に収まりきらなくなったのだ。
「イザリオ様! ロスク! 下がれ!! 来るぞ! 影王相に触れるな!!」
ヒロノゼウスの叫びと、ほぼ同時だった。
赤黒く煌めく核石が、クルサ・ガルヴァの胸部から離脱した。
「ドクン」
宙に浮かんだ核石が、不気味な鼓動を刻む。
次の瞬間、クルサ・ガルヴァの巨体が、崩れ落ちるのではなく、急速に輪郭を失っていく。外殻の厚みが消えた。肉体の質量さえ抜け落ちたように、その巨体は、ただ一枚の“影”へと変わっていく。そして、宙に浮かんでいた赤黒い核石が、地面へと落ちた。核石を中心に、赤黒い影が液体のように地表へ広がっていった。
「ズズズ……」
広がった影が、蠢き始めた。次の瞬間。影が、地面そのものから立ち上がった。いや、立ち上がったのではない。地面に広がった影が次々と形を変えていった。
二つ。
三つ。
五つ。
影は枝分かれし、引き伸ばされ、互いに異なる輪郭を形成していく。やがて、十数体の“クルサ・ガルヴァ”が、同時に空間へと浮かび上がった。輪郭を失っていた影が、徐々に質量を帯びていく。そして、影は実体を伴い、次々と地表に姿を現した。
「何……分身か!?」
イザリオが呟き、額に汗が滲む。
イザリオも双剣を握り締め、王子自ら最前線へと斬り込んでいた。
そして、ロスクがサーベルを振り抜く。
「ザンッ――!」
「ザンッ――!」
「ザンッ――!」
斬撃は、確かに影を捉えた。だが、次の瞬間、霧のようにほどけて散った。
「消えた?」
「ロスク、離れろ!! 斬っても意味がない!!」
ヒロノゼウスが叫ぶ。
「影は、蜃気楼だ! 攻撃してくるが、こちらの攻撃では“消えるだけ”だ!!」
影たちは、音もなく、同時に踏み込んできた。
前から、横から、背後から。
「チッ……どれが本体か、という話じゃないな……。見分ける方法がないってことか……」
ロスクが歯を食いしばる。
イザリオが息を上げる。
「ロスク……これじゃ埒があかない。いったい、どうすれば……」
空中を飛翔するヒロノゼウスの視線が、戦場を走った。
十数体の影。
どれも同じ動き。
どれも同じ姿。
(どれだ、どれが、本体なのだ……)
ヒロノゼウスが目を追った。
その中に、一体だけ、霧の揺らぎがわずかに違っていた。
根の洞入口――。
エルファーナの癒しの光が、淡く揺れていた。その光に照らされた影だけが、
ほんの一瞬、“輪郭が歪んだ”ように見えた。
「エルファーナ王女の白魔法……」
ヒロノゼウスの脳裏にひとつの仮説が形を取り始める。
(影は、光を嫌う。いや、“真実を照らされる”ことを拒んでいる……)
次の瞬間、影王相の影が一斉に動いた。
まるで合図を受けたかのように一斉に踏み込み、
その中心から――五条に分かれた白い爪が空間を裂いた。
「避けろ!!」
ヒロノゼウスが歯を食いしばり、
空中からエルフショットガン閃光式麻痺球(スタン・オーブ)を構えた。
「下がれ!! まとめて消し飛ばす!!」
「バシュッ!!」
「バシュッ!!」
「バシュッ!!」
連続する閃光弾が影の群れを貫き、赤黒い霧が、爆ぜるように霧散する。だが、消えたはずの影が、次の瞬間には、別の場所で再び形を成し始めていた。
「再構成が、早すぎる!」
本体が、分からない。撃てば消える。だが、意味がない。このままでは体力が削られて終わる。戦場に一瞬の“絶望”が落ちた。
その時った。
「やめて……! もう誰も、傷つかないで……!」
その声が戦場を覆っていた絶望を裂いた。
震える両手を胸の前で組み、エルファーナは、必死に祈りの姿勢を取る。
「命の源よ……清き光よ……闇を照らし、真の姿を示したまえ――」
「――“ミコトノリ・ヒカリノメザメ”!!」
――パァァァァァァァッ!!!!
根の洞から放たれた光が、まるで“朝日”のように影の群れへ降り注いだ。
影の分身たちは一斉に硬直した。
――ピタ。
「止まった!?」
イザリオ達が驚愕する。光に照らされた瞬間、影化ステップが一時的に無効化されたのだ。分身たちは煙のように霧散し、ただ一体、核石(コア)の鼓動を宿した“本体”だけが姿を残していた。
「いた……! 本体だ」 イザリオが叫ぶ。
「イザリオ様! 今です! イザリオ様の“意志”を刃に乗せてください!」
(イザリオ様の短剣に練り込んである光の鉱石が、
クルサ・ガルヴァを影王相から解放してくれるはず!)
(きっと、イザリオ様ならできる。俺は信じる)
影王相が、白魔法の蔦で絡められた体を必死に解こうとしていた。
低く唸りながら、核石に膨大な赤黒い霧を集めていた。
「お兄様……“闇”を断ち切って!!」
エルファーナの澄んだ声が響いた。
イザリオの瞳に、決意の光が宿る。
「応えるとも!」
イザリオは双刃を強く握った。
かつて、父王が語った言葉が甦る。
『我らはかつて、剣を振るい、この大地を帝国から奪い取った。だが、それだけでは国は育たなかった。真に国を創ったのは、戦の後に残った者たちの手だ。花を植え、森を守り、傷ついた獣の命に耳を傾けてきた“静かな祈り”。それをイーサムを守ってきたのだ』
『イザリオ。お前もいつかその“静けさ”に耳を澄ませられるようにな』
続いて、ラッセル大佐の声。
『剣が奪うか護るかを決めるのは……
剣そのものではありません。それを握る者の“心”です』
『相手が魔であろうと獣であろうと、
そこにあった命の温もりを忘れないで下さいませ』
『殿下の剣が誰かを護るためのものならば、
それは真の王へ通じる“道”です』
イザリオは目を閉じ、深く息を吸った。
イザリオの心が静まった。
(この剣は、ただ倒すためにあるのではない……)
(苦しむ魂を解き放ち、守るべき者を護るため……)
双刃の柄が微かに震え、
エルフエナジーの粒子が優しく舞い始めた。
そして、王子の祈りが、刃と共鳴した。
「クルサ・ガルヴァ」
王子の声には、怒りではなく、深い祈りが込められていた。
「お前は、この島を護ってきた神獣だ」
イザリオは、影王相に覆われたクルサ・ガルヴァを見据えた。
「ならば……私が、お前を救い出す」
その言葉に応えるように、双剣の光が強く輝いた。
イザリオの構えは静かで、澄んだ湖面のように揺るがなかった。
その立ち姿からは、迷いという影が一片たりとも感じられない。
「この一撃に……王家の誇りを賭ける」
その瞬間、白魔法の蔦を切った、影王相が最後の咆哮をあげた。
赤黒い霧をまとい、眉間に生えた角を立て、
王子めがけ、槍となって突進する。
イザリオは地を蹴った。
身体が風に溶けるように前へ流れ、双刃は光を帯び、
蒼白い弧を描いて影王相へ飛び込んだ。
「――光斬心(こうざんしん)ッ!!」
双剣が交差した。
風が、裂けた。
次の瞬間――
影王相を纏っていた赤黒い霧が、光に押し払われるように晴れていく。
「バシュゥッ――!!」
「バシュゥッ――!!」
胸部に寄生していた核石が、イザリオの必殺技によって十字に断ち切られた。
「ドクン――」
赤黒い鼓動が、一拍だけ響き、そして、止まった。
赤黒く煌めいていた核石から、急速に色が失われていく。
「ピシッ……」 亀裂が走ったその瞬間、核石は音を立てて砕け散った。
影王相が、ゆっくりと地へ崩れ落ちた。
イザリオ王子の双剣から放たれていた光が静かに消えた。それと同時に、影王相の身体を覆っていた鋼の甲殻や尖った角に、音もなく細かな亀裂が走った。砕けるのではない。剥がれ落ちるのでもない。それは白い霧となり、静かに溶けていった。
赤黒く歪められていた肉体は、もうそこにはなかった。白い霧の中に残されていたのは、かつてこの島を護っていた神獣の“輪郭”だけだった。やがて白い霧は、かすかに残っていた神獣の祈りに重なるように、ゆっくりとその姿を包み込んでいく。そして,白い霧が完全に晴れたあと、そこに残っていたのは、静かに横たわっていたのは、王家や島民に愛されている、小柄な夜行性の神獣――クルサ・ガルヴァだった。
その体毛は弱々しく、四肢は細く震えていた。
背の骨角は、あの禍々しい赤黒ではなく、かつての 白磁の角 へと戻っていた。
光に祓われた獣の眼差しは、もはや恐れも怒りも宿していない。それでいて、かつて島を護っていた者の名残を宿す、温かく静かな金色のまなざしだけがそこにあった。
だが、その身体は呼吸が浅く、胸が上下するたびに小さく震える。全身に散った痣や裂傷は、生きてきた時間すべてが刻まれたようで、まるで触れれば崩れてしまいそうなほど脆かった。
エルファーナが駆け寄る。
「クルサ・ガルヴァ。こんなに傷ついてしまって……
瘴気に操られて、本当に苦しかったよね……」
エルファーナは声を詰まらせた。
エルファーナはそっと跪いて、クルサ・ガルヴァを抱き抱えた。胸の前で指を絡めると、腕輪が微かに震え、やわらかな白光がふわりと滲みはじめた。
「命の源よ、清き光よ……この子の魂を、穢れから解き放ち給え。
ミコトノリ・ヒカリノミズ――カワキヨメ」
――パァァァ。
白い光が、そよ風のように獣へ降り注ぎ、傷ついた毛並みに、やさしく染み込んでいった。
クルサ・ガルヴァは、一瞬だけ驚いたように身を震わせた。
だが、鳴くことも抗うこともなく、やがて静かに目を閉じその光を受け入れた。
白い光は、体内に砕け散っていた核石の欠片に残る、赤黒い眼の霧“残滓”を焼き切っている。魂核のバランスを、ゆっくりと取り戻していった。浄化されたクルサ・ガルヴァの体内から、ごく僅かな赤黒い光が、白い光から遠ざかるように夜空へと昇っていった。
それは、焼かれるのを恐れた、小さな一片の核石の残滓だった。やがて森を覆う霧の中で、その残滓がゆっくりと滲み始める。赤黒い光が、再びゆっくりと“形”を取り始めた。そして、赤黒い霧が幾重にも絡み合い、ひとつの姿を形作っていく。
小さいながらも確かな“意思”を宿した――赤い竜だった。
「逃げる気か……!」
ヒロノゼウスは、エルフショットガン閃光式麻痺球を構え、すかさず放った。
「バシュッ――!」
だが、小さな赤い竜は光の弾を紙一重でかわした。そのまま夜空へ高く、さらに高く舞い上がる。そして、闇の中へと溶けるように、姿を消していった。
「くそ、逃がしたか……」
ヒロノゼウスは空を見上げた。
『ヒロ、俺が竜の行先を追うか?』
近くの枝に降りていたセブンが、ヒロノゼウスに声をかけた。
「だが、あれは残滓にすぎない。憑依する力も、おそらくないだろう」
『そうか、再び空を監視する。何かあったらテレパシーで伝えるからな』
「ああ、よろしくな。セブン」
セブンは再び翼を広げて夜空を旋回し始めた。
「光の鉱石でできた、エルフエナジー浄化首輪だ。
これがあれば、瘴気に二度と侵されることはない」
そう言って、ヒロノゼウスはエルフエナジー浄化首輪をクルサ・ガルヴァに装着した。
やがて、クルサ・ガルヴァはイザリオに近づき、その顔を王子の足元へ擦り寄せた。
――救ってくれて、ありがとう。
そう伝えているかのようだった。
その背後で、エルファーナは胸が熱くなり、堪えていた涙を静かにこぼした。
「よかった……本当に……」
その声に応えるように、クルサ・ガルヴァは小さく首をかしげ、今度は金色の瞳でエルファーナを見つめた。――あなたの祈りも、確かに届いている。そう告げるようだった。
「クル、クル……」
どこか幼く、柔らかな鳴き声が夜の森に響いた。
イザリオはクルサを抱きかかえた。
「今からクルサと呼ぶのはどうかな?」 イザリオが提案する。
「いいですね、お兄様。エルファーナは賛成です。みなさん、いかがですか?」
「反対する理由など一切ございません。ねえ、みなさん」
ロスクが、久しぶりに戦士ではなく、柔らかな物腰の侍従の姿に戻っていた。ヒロノゼウスとルーネも笑みをこぼし、静かに頷いた。
「クルサを、私たちと共に連れて行くのはどうだろう。首輪があっても、この島は危険だ」
イザリオが皆に提案したときだった。
クルサはイザリオの腕から飛び降り、森へと歩いていった。
「どうした、クルサ。一緒に来ないのか?」
やがて、クルサは立ち止まった。
「こっちにおいで、クルサ」
エルファーナが跪き、両手を広げた。
しかし、クルサは振り返ったまま、その場を動かなかった。
「クルサは、この島に残りたいのでしょう.クルサの意志を尊重することも、大切だと思います」
ルーネが静かに口を挟んだ。
「本当に大丈夫なのか。ヒロノゼウスはどう思う?」 イザリオが問う。
「はい。闇落ちしたときのクルサには、理性の残滓が非常に強く残っておりました」
ヒロノゼウスは、クルサを見つめながら続けた。
「通常の動物では考えられません。神獣としての強い意志が、今も残っているのです」
「その意志がある限り、首輪に込められた光の鉱石が力を放ち、クルサを瘴気から守ってくれるでしょう。私も、ルーネの意見に賛成です」
ヒロノゼウスは、静かに微笑んだ。
「動物にも心があります。その心に寄り添うことも、人の務めなのだと思います」
「そうか、わかった。ありがとう、ヒロノゼウス」
イザリオは、クルサの方を見つめた。
エルファーナは言葉が出ず、寂しげな表情を浮かべていた。
クルサは、ゆっくりと森の奥へ歩み出した。その小さな背は、どこか寂しげで、それでも誇り高く、凛としていた。まさしく、この島を護り続けてきた“守護獣の背”だった。
イザリオ王子は胸に手を当て、祈るように静かに言葉をかけた。
「どうか、安らかに。そして、必ずこの島を元に戻す。そのときは、また力を貸してくれ」
「エルファーナは、島に留まるクルサの無事を毎日願います」
二人の言葉を背に受けながら、クルサは歩みを止めた。そして、ゆっくりと振り返り、静かに頭を下げた。それは別れの所作であり、同時に、この島を護ってきた守護獣としての誇りを示す姿にも見えた。やがて、クルサ・ガルヴァは夜の森へと帰っていった。
何事もなかったかのように、夜風が木々を揺らした。葉擦れの音だけが、静かな夜の森に響いていた。