テラーノベル
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クルサ・ガルヴァが森の茂みの奥へと姿を消していくのを見届け、ロスクが、待機しているヘリへ無線を入れようとした、その時だった。
「ボウウウウ……」
低く、耳の奥を無理やりこじ開けるような不快な低周波音がイザリオ達の脳を揺さぶった。
「嫌な音だ……」
ヒロノゼウスの声が、わずかに掠れた。
「激しいノイズで、ヘリと通信ができません。この不快な低周波音が原因なのか……」
ロスクは無線機を手にしたまま、眉をひそめた。
「このまま歩いて、港町まで行かないといけないのか……」
ロスクが、力なく呟いた。
その隣で、エルファーナがふと空を見上げた。
「え?……」
次の瞬間、彼女は息を呑んだ。
「お兄様…… 空が…… 裂けています……」
西の島の地表を這うように広がっていた赤黒い瘴気が、一点に引き寄せられるように、静かに渦を巻いていた。まるで“呼吸”するかのように、濃度を増し、重なり、凝縮していく。その異変を、瘴気圏の上空高度を取った位置から、セブンが瘴気の渦を観測していた。
『ヒロ……渦の目に向かう』
(無理するな、セブン! 激しい上昇気流でやられるぞ!)
『わかっている』
セブンが瘴気の中心へ近づくにつれ、気流が荒れていく。地上から吹き上げる上昇気流に翼を煽られ、セブンの身体が大きく揺れた。
それでもセブンは高度を維持し、渦の中心へと向かった。脚に装着されたセンサーが瘴気を感知する。測定されたデータは瞬時に数値化され、ヒロノゼウスのガイドスコープへ送られた。
(瘴気密度、特定の箇所で急上昇か……)
(まずいな……)
ヒロノゼウスの額に汗が落ちる。
『島全域に拡散していた瘴気が……一点へ収束中』
(セブン……一点収束だと?)
『ああ。自然消散ではない。自律的な凝集反応だ』
(……もしかして、あの時逃げた一片の核石か?)
『その可能性はある。だが、渦が激しくて確認できない』
ヒロノゼウスはその報告を受けながら、ゆっくりと空を仰いだ。その視線の先で、瘴気の渦が不気味に蠢いていた。
『警告』
わずかな間を置いて、セブンの声が続く。
『ヒロ、あの逃げた核石の赤黒い竜が成長している』
(くそっ……)
ヒロノゼウスの脳裏にあのときの判断が蘇った。
(あの時、仕留め損ねた核石……)
(動物に憑依する力もないと推察した。なのに……読みが外れた)
『ヒロ……まずい。赤黒い竜が下降し始めた』
竜は島の外縁をなぞるように旋回しながら、森へと高度を下げていく。
やがて、その巨体は森の闇へ溶け込むように姿を消した。
(何……!?)
次の瞬間、大地が震えた。土が跳ね上がって木々が軋む。島に棲む動物や魔物たちの悲鳴が、連鎖するように森の奥へと木霊していく。
赤黒い竜は自らの姿を隠したまま、爪だけを伸ばした。伸びた爪は異形の触手へと形を変え、森の中を這い回る。逃げ惑う獲物を追い詰め、恐怖と疲弊を極限まで高める。逃げ場を失ったところで、最後に本体が喰らう。そして今、その獲物を求めるように、赤黒い竜は人間の匂いを嗅ぎ取っていた。
『ヒロ! まずい! ヒロたちがいる根の洞に向けて突進しているぞ!』
「イザリオ様。セブンから報告です。取り逃がした核石が赤黒い竜となり、こちらへ向かっているとのことです」
「何!? 赤黒い竜だと……」 イザリオの表情が強張った。
「ヒロノゼウス!! 赤黒い竜を叩けるか!!」 ロスクが問う。
◆ 緊急解析結果
学名 : 不明
分類 : 高位瘴気凝集体
攻撃 : 金縛り(睡眠麻痺)/意識浸潤/精神破壊/体細胞同時破壊が予測
特技 : 挙動予測不能
接触時生存率 : ほぼ即死
迎撃成功率 : 1%以下
備考 : 過去の伝承記・学術誌を参考に算出。不確実性の高いデータ
――思考を凍りつかせた。
「……くそっ」 低く吐き捨てた。
解析が役に立たない、いや、役に立ちすぎている。“勝てない”その事実を、これ以上なく正確に告げていた。
「ロスク……無理だ。赤黒い竜は叩けない。これは、戦闘対象じゃない」
視線を、地を這う赤黒い竜へと向ける。
「近づかれた時点で金縛り。攻撃を受けた瞬間、意識を喰われる……」
ヒロノゼウスは拳を握り締めた。
「そして、意識を奪われたまま、身体は木っ端微塵に破壊される……これは“敵”じゃない」
そして、声を張り上げた。
「厄災だ!!」
一瞬、この世界の時計の針さえ止まったかのように、一同の動きが凍りついた。
「どうすれば、この危機を乗り越えられるか……」
ヒロノゼウスの眉間にしわが寄った。
「根の洞へ一時避難しましょう!」 ルーネが促した。
「そうだな。結界糸を張れる根の洞が一番安全だ」 ロスクが頷いた。
(結界糸……?)
ヒロノゼウスは、その言葉に引っかかった。
聞き慣れない言葉だった。
イザリオが即座に決断する。
「ならば、迷っている暇はない! 根の洞へ退避するぞ!」
一行は一斉に身を翻し、根の洞に駆け込んだ。
コメント
1件
読み終えました。瘴気が一点に収束する描写、すごく不気味で引き込まれました。「戦闘対象ではなく、厄災だ」という台詞にゾッとしましたね……。序盤でセブンがあれだけ危険を冒して観測したからこそ、あの緊迫した判断に説得力がありました。あと、ロスクの「結界糸」という言葉に引っかかってるヒロノゼウス、次が気になります。
桜城
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comi
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