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第18話:絶遮者の条件
翌日の放課後。
拓真は市街地の南端にある香波資料館へ向かった。
外観は白い壁面に香波色を模した装飾が施され、入口のガラス扉には「香波史・技術・社会展」と書かれている。
制服姿の拓真は、まだ昨日の出会いの余韻を引きずっていた。
館内は、芳香フィルターの甘い匂いが漂い、壁一面のモニターには歴代の香波大会や災害救助の映像が映し出されている。
その一角に——「絶遮者(ぜつしゃしゃ)」と刻まれた展示コーナーがあった。
パネルには、黒髪を短く刈り込んだ女性の写真が映っていた。軍服のような制服に身を包み、背筋を伸ばして直立している。
説明文にはこうあった。
> 絶遮者とは、香波の発生・感知能力を先天的に持たない、または後天的に失った者。
特徴:周囲半径数メートル以内の香波活動を無効化する。
社会的位置:戦闘・防衛・特殊捜査における“対香波兵器”として重用されるが、日常生活では孤立する傾向が強い。
背後から声がした。
「興味があるのか」
振り向くと、昨日の深緑コートの男が立っていた。
今日は黒のパーカーにジーンズ姿で、髪は少し乱れ、目元には薄い隈がある。
彼は展示パネルを顎で示しながら言った。
「俺も、ここに載ってる条件を全部満たしてる」
淡々とした声に、重みがあった。
「絶遮者は、香波を見えないし匂いもしない。だから敵の波も、仲間の波も区別できない。——孤独だぞ」
その言葉は、昨日感じた冷たさとは違い、妙に人間味を帯びていた。
拓真は胸の奥で何かがざわつくのを感じた。
「……じゃあ、もし大会であなたと戦うことになったら?」
男は少し口角を上げた。
「その時は、お前の“波の外”の力を見せてみろ」
帰り道、夕暮れの通学路で拓真は考えた。
波が封じられても動けるように、足運び、間合い、反射神経……自分にできることは山ほどある。
昨日まで“波だけ”に頼っていた自分が、少しだけ変わった気がした。