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第19話:合同練習の衝突
黄波地区訓練センター。
外壁は光沢のある淡黄色で統一され、入口横の大型スクリーンには「地区対抗戦・合同強化練習」と大きく映し出されている。
館内に入ると、甘い柑橘系の芳香と、強者たちの濃い香波の空気が入り混じっていた。
拓真は黄色のジャージに着替え、胸元に地区のエンブレムをつけて体育館へ。
床一面に波色表示用の透明フィルムが敷かれ、香波が発生すると色が浮かび上がる仕組みになっている。
蓮は横で腕を組み、相変わらず深色のトレーニングウェア姿。抑制バンドからはかすかに灰色の波が漏れている。
「おい、あれが緑波の拓真か?」
低い声が聞こえた。
振り返ると、短く刈った金髪に鋭い目をした少年が立っていた。
肩幅が広く、ジャージ越しにも鍛えた体つきが分かる。彼の周囲にはオレンジ色の波が脈打っていた。
「俺は橘 隼(たちばな しゅん)、橙波地区の代表だ。噂の“弱波”がどんなもんか、見せてもらおうか」
言うや否や、隼は片手を突き出し、橙波を床に叩きつける。
床のフィルムに火花のような色の波紋が広がった。
周囲の選手たちが「おぉ」とどよめく。
香波社会では、初対面で力を測る“波見せ”は珍しくない。だが、ここまで挑発的なのは少数だ。
拓真は息を整え、深呼吸。
胸の奥から波を押し上げると、淡い緑色がじわりと広がる——が、今回はすぐに赤みを帯び始めた。
昨日までとは違う、感情の制御が効いている感覚。
「……これが今の俺の波だ」
緑から橙寄りの赤まで変化した色に、周囲がざわつく。
蓮が横で小さく笑ったのが分かった。
隼は一瞬だけ目を細め、口角を上げた。
「面白ぇ……本番で当たったら全力で潰す」
そう言って離れていく背中を見ながら、拓真は拳を握った。
——大会まで、あと二週間。波も、心も、少しずつ“戦える形”になってきていた。
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