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「僕も解らないんだ。どうして夢の中に閉じ込められてしまったのか」
シモハライ先輩はそう言って、大きな溜息を漏らした。
「以前見せられたことのある夢――夢渡りの魔法とは全然違うと思う。僕も最初は真帆のいたずらか何かだろうと思って、さっきからあっちこっち真帆を探して彷徨い歩いていたんだけど、どこにも真帆のいる気配なんて感じられなかった。たぶん、この夢はそもそも真帆の見ている夢じゃないんだ。他の誰か、それが誰なのかは判らないけれど、その誰かに意図的に僕らは集められたような気がしてならないんだ」
「誰かに、意図的に?」
わたしが繰り返すと、シモハライ先輩はこくりと頷いて榎先輩に顔を向けて、
「榎先輩、何か心当たりとかありませんか?」
「心当たりって言われても……」
困ったように眉を寄せる榎先輩。
シモハライ先輩は「そうですねぇ」と口元に手をやりながら、
「例えば、誰かから魔法をかけられたとか」
「……そんなの、かけられた時点ですぐにわかるじゃん」
榎先輩の返答に、確かにそうだ、とわたしは思った。
もし何らかの魔法をかけられていたとして、その自覚があれば、そもそもこんなに悩んだりしていない。解らないから困っているのだ。
いったい、誰が、何の目的で、誰の夢の中に、わたしたちを閉じ込めているのか。
それが判らない限り、わたしたちはいつまでたっても前へは進めないような気がしてならなかった。
「シモハライくんは?」
逆に尋ねられて、シモハライ先輩は榎先輩に視線を向ける。
「シモハライくんもこの夢に閉じ込められてるってことは、誰かに何かの魔法をかけられたってことなんでしょ? 心当たりとか、ないわけ?」
「僕は……」
とシモハライ先輩はアハハ、と頭を掻いて笑いながら、
「僕も心当たりはないですね」
なんだ、結局なんの頼りにもなってないじゃないか、なんてことは口には出さない。つっこんだところで仕方がないし、もしかしたら二人よりも三人のほうが何かいい案が浮かぶかもしれない。ほら、三人寄れば文殊の知恵っていうでしょ?
わたしもつられて笑っていると、
「カネツキさんは?」
訊ねられて、わたしも思わず困ってしまった。
わたしだって、特に心当たりがあるわけじゃない。
わたしもこの夢を楸先輩の夢だとばかり思っていたし、実は違うかもしれないって話になったって、そんなの――
「……っ!」
その時、わたしの脳裏に何かの映像が一瞬、フラッシュバックしたような気がした。
それは本当に一瞬の出来事で、先ほど夢の壁に触れた時のように、どこか曖昧で、靄がかかっているようにぼやけていて不鮮明で――だけど。
「……誰かに、魔法をかけられた」
それは絶対に間違いない。そしてわたしは、その事実を忘れている。
ぼんやりとだけど、見えた人影。それはわたしに何かを話しかけてきて、そして?
なんで? どうして? いったい誰に、いつ、そんな魔法をかけられた?
眉間に手をやり、わたしは必死にそれを思い出そうと試みる。
そんなわたしに、シモハライ先輩は目を見開き、
「もしかして、心当たりあるの?」
一歩、詰め寄ってくる。
けれど、全然思い出すことなんてできなくて。
「わかりません。記憶がぼやけていて、思い出せないんです」
わたしはそうはっきりと口にして、
「おふたりは? わたしにぼんやりと記憶があるみたいに、榎先輩もシモハライ先輩も何か思い出せませんか?」
う~ん、と榎先輩は額に手を当てて小さく唸り、
「誰かに――誰かに――」
と何度も繰り返し口にして、
「僕に魔法をかけた誰か……」
とシモハライ先輩も眉間に皺を寄せて考え始める。
三人が三人して頭を抱え始めて、けれど全然思い出せなくて。
互いにかぶりを振って肩をすくめた時だった。
ふわり、と何かがわたしたち三人の目の前に落ちてきた。
それはどこからともなく現れ、ひらひらと頼りなく左右に揺れながら舞うように落下していくと、やがて音もなくわたしの足元に着地した。
「えっ」
とシモハライ先輩はそれを見て目を見開き、
「これ」
と榎先輩もぽかんと口を開けてそれを見つめる。
わたしは腰を屈めて、その落ちてきた白い羽を拾い上げながら、
「もしかして、アリスさんから貰った羽?」
そう口にすると、さらにふわりふわりともう二枚、今度は榎先輩とシモハライ先輩の目の前にも、同じように白い羽が舞い落ちてきた。
ふたりはその羽をそれぞれ優しく手で掴むと、
「……ふたりも、アリスさんから貰っていたのか」
「そうみたいだね」
とシモハライ先輩と榎先輩は口にして、わたしたちはその羽を互いに見せ合う。
『何かあった時に、すぐに私やイノクチ先生が駆けつけられるように、報せの魔法をかけた羽』
アリスさんはそう言って、わたしにこの魔法の白い羽をくれたのだ。
だけど。
「――で、これでいったい、どうしろって?」
わたしが思ったのと同じことを、シモハライ先輩は口にした。