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月咲やまな
398
#恋愛
十色
257
将来有望な後継者を廃人にされた事もあり、西條家の本家と親族一同はソロアを『西條』から除籍すると決意した。あんなに毛嫌いしていた『平民』のレッテルをあえてソロアに与え、大きくなる一方の腹を抱えたまま、とある僻地にある『静養所』とは名ばかりの『収監施設』に送る事になった。超が付くほどの問題児を体良く閉じ込めておくための施設らしい。一度入ると、もう二度と、元の場所には戻れないって感じの場所だ。
末弟であるソリアは心身共に回復は見込めず、治療の一環として、問題となった記憶の消去が決まった。医師免許と魔術師、双方の資格を持つ者が、国の許可を得て行う特別な医療行為だ。じゃないと記憶を消し放題になっちゃうから、使用条件が厳しいんだよね。
生活に支障が出ないよう、本来なら問題の原因となっている記憶を消去するのみで終わらせるのだが、今回の一件は、厄介な事に『加害者』が『実の姉』である。生まれた時から関わってきた人間が加害者であった場合、トラウマ化した出来事の記憶のみを消去したとしても深層心理の傷は癒えず、残っている別の『加害者』に関連した『記憶』や『思い出』が悪さをして精神的ストレスを負い続ける可能性があるため、ソリアは今まで生きてきた十二年間すべての記憶が消去される。
少年の身でありながら、中身は赤ん坊からのやり直しとなったのだ。
大事な息子として、そして後継者の筆頭としてソリアに費やしてきた全てがリセットされてゼロになる。実質的には『死亡』と大差ないだろう。実父でもある当主の心の苦難はもう想像を絶するものだったに違いない……。
とうとうソロアが西條家から除籍される日になった。
本家にて、西條家一同が見守る中で除籍手続きを執行。そして除籍後は『静養所』に送るための事前準備としてソロアの魔力が封じられる。逃走防止、且つ施設運営者達の安全のためだ。
魔法も使えなくなり、特権階級から平民への転落。
そして腹の子供と共に僻地に捨てられる。
もはや彼女に残されているのは、その未来しかなかった。
差し迫った事実を全く受け入れられず、少しも悔恨する事もなく、ただただ『高貴なワタクシが何故⁉︎』と騒ぐばかりで反省の色は微塵もない。これまでの日々で、散々親や弟妹達から行動の問題点を説明されてもまともに聞こうともせず、身の回りにあった高価な装飾品や衣類などの全てを没収されても憤慨するばかりで、ソロアに改善の見込みは全く見られなかった。普段の発言と行いのせいで彼女を庇う者もいない。怒るばかりで、反省や、状況を改善しようと孤軍奮闘する様子すら無いことで、希少で有能なはずの『獣人』でありながら、彼女の除籍を惜しむ者すら一人も現れなかったそうだ。
末席に至るまで全て集められた西條家親族一同の目の前で、机の上に置かれた除籍に関する書類を前にして、ソロアは自分の置かれた立場をやっと理解したのか、急に叫び、暴れて獣化してしまった。書類を引き裂き、周囲に居た者に噛み付いて怪我をさせ——
挙げ句の果てには魔力をわざと暴走させて自殺するに至った。
怒りに任せたその行為に及ぶ時、彼女に『胎児だけでも守る』という母らしい素振りは残念ながら少しも無かったようだ。しかも『獣人』であったソロアの保有魔力はかなり多く、学校に通っていなかった彼女では碌に魔力操作も出来なかったせいで半径一キロをも巻き込む大爆発をやらかした。そのせいで西條の本邸と周辺の住宅が全て蒸発する様に消し飛び、被害者の数が、戦争以外では歴代最多という最悪の事件となった。
親族一同も集まっていた事から、この日を境として『西條』という歴史ある侯爵家が潰えてしまった。入院中であったソリアだけは難を逃れたが、赤子同然の彼では復興は無理だったろうな。
そして、元婚約者という理由で、この日は叶糸も西條家に居たため、彼もこの爆発に巻き込まれて死亡した。
ソロアの暴発を食い止める事も、恐らく叶糸の能力であれば可能だっただろう。だが、生い立ち故にもう『生きる』事に執着のない彼では、咄嗟に行動出来なかったみたいだ。だけどそのおかげで『西條家の悲劇』は全てリセットされた。叶糸がまた十九歳の頃に死に戻った事で、この時間軸ごと無と化したのだ——
——そんな叶糸の『二度目の人生』を振り返り終わり、ふぅと息を吐いた。義親の指示でしていた婚約だったのに不思議とモヤッとする。……全てが全て悪い結果ばかりだったからそう感じるんだろうけど、変な気分だ。
西條と剣。両家の当主がまた出会えば、もしくは惺流が叶糸の婿入り先を本格的に探し始めでもしたら同じ事態に陥ってしまう可能性がある。『管理者』としての観点から見ても、大惨事となったあの爆発事件は回避しておきたい。個々の案件とはいえ、知ってしまった以上は、西條家の次期当主筆頭候補であるソリアの人生を二度とソロアが壊してしまわない様にもしてやりたいな。
(夜会の会場では当主同士を認識出来なくする魔法で誤魔化したけど、根本をどうにかしていかないとだよね)
今回は叶糸を巻き込まれないという確証がまだ無い以上、どうにかするべきか真面目に考えないといけないが、さぁどうしたものか。
……もう叶糸を、この人生の途中で死なせる訳にはいかない。
私の『願い』の為にも、『悲願』を叶える為にも、やれる事は全部やって人生を全うさせねば。
コメント
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おお…これはまた重い幕間だな。ソロアの末路、まさか自爆でここまで大惨事になるとは思わなかった。叶糸も巻き込まれて死んだってのが衝撃すぎるわ…「生きることに執着がない」って台詞が刺さる。で、今の時間軸では叶糸を守りたいって視点なのか。アルカナの焦りが伝わってくるし、どうにかして欲しいとこだわ。