テラーノベル
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「ほら、まだ聞き足りねぇな」
誰かが机を叩き、ざわめきが再び広がる。
「昨日は“気持ちいいのか”ってやつだったけど……今日は“どっちが上手かったか”聞こうぜ。兄貴か、弟か」
一瞬で空気がざらついた。面白がる笑いが漏れ、視線が一斉に遥へと突き刺さる。
「……っ」
遥の口が固く閉じられる。吐き気が喉の奥をせり上げる。
「言えよ。どっちの方がうまく使った? 手か? 口か? 力強さか?」
「そういうの、ちゃんと答えないと点になんねぇからさ」
「沈黙ってさ、ズルくね? どうせバカ正直に答えるんだし」
笑い声が刺す。誰かがわざと「おい日下部、明日お前の番な」などと名前を持ち出す。
その一言で、遥の背筋は凍りついた。
「……やめろ」
声が震える。教室の誰も止まらない。
「ほら、また守ろうとしてんじゃん。じゃあ言えよ。どっちが上手かった?」
「……俺は……そんな……」
「答えろ!」
机が蹴られ、音が教室を響かせる。遥の身体がびくりと震えた。
「……兄貴……の方が……」
言った瞬間、どっと笑いが起きた。拍手まで混じる。
「おいおい、はっきり言ったな!」
「じゃあ弟は下手だったんだ? かわいそー」
「うわ、家族で比べるとか最低」
「でも本当なんだもんな? やっぱ上手くやってんじゃん」
吐き出した言葉が刃になって自分に突き刺さる。遥の目は宙を泳ぎ、指先は机を必死に掴んで震えている。
「じゃあ次な。どの時が一番“気持ち悪かった”?」
「泣いたことあるか?」
「声我慢できなくて出ちゃったこと、あんだろ?」
質問は畳みかけるように飛んでくる。遥はその一つ一つを飲み込み、吐き出す。答えるたびに笑いが起き、囃し立てられる。
「……最初の時……抵抗したら……殴られて……」
「ほらー、かわいいな。抵抗しちゃったんだって」
「で、結局従ったんだろ? 自分から腰振ったんじゃね?」
「……違う……俺は……」
「違わねーだろ。結果やってんだから同じだよ」
反論はすべて笑いにかき消される。彼らにとっては「遥の惨めさ」をいじり倒すことが点であり、娯楽なのだ。
「よし、次の質問! 何人の前でやらされたことある?」
「外でもやったんだろ? 文化祭とかで女の格好して」
「どうせ、ちやほやされて嬉しかったんだろ?」
質問は容赦なく積み重ねられていく。遥の過去は次々と暴かれ、語らされ、笑いの種にされる。
「……人前で……服脱がされて……」
「ほら、やっぱやってんじゃん!」
「それで? バカにされながら感じちゃったんだろ?」
「違う……違う……」
小さな声は嘲笑にかき消される。
「うっせえな。“違う”ばっかじゃ点入んねぇんだよ。もっと面白いこと言え」
「そうそう、正直に“気持ちよかった”って言えば済む話だろ?」
言えない。だが、言わないと──また日下部の名が持ち出される。
その恐怖が、遥を縛りつける。
「……俺は……」
口を開く。けれど言葉は血の味がするほど重く、出すたびに心がえぐれていく。
笑い声は止まらない。拍手が起こり、次の質問をせがむ声が飛ぶ。
授業も勉強も、この瞬間には存在しない。ただひとりを壊す遊びが、教室という舞台を支配していた。
そして遥は、自分が「壊され役」であることを、再び思い知らされる。
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