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「なあ、今日は“本人の意思”に任せてみねえ?」
昼休みの教室、日下部は教師に呼び出され姿がない。残された遥を囲み、クラスの何人かが口角を歪める。
「嫌ならやんなくていいんだぜ? 俺らはお前を尊重するから」
わざと優しい声音。だが笑いは堪えきれず、ひそひそと漏れる。
「……本当に……?」
遥は疑わしげに眉を寄せる。その反応すら、彼らには遊びの一部にすぎない。
「もちろん。ただし、やらなかったら……そうだな、日下部が明日、体育の時間にどうされるかは分かんねぇけどな」
「お前が選べよ。自分か、大事な相棒か」
選択肢など存在しない。
遥は俯き、拳を握りしめる。喉が渇き、唇がひび割れる。
「……分かった……俺がやる……」
歓声が上がる。机が寄せられ、簡易の“舞台”が作られる。カーテンは閉じられず、しかし廊下からは見えにくい位置。完全に“観客だけの劇場”だ。
「さあ、始めろよ。自分で触って、ちゃんと声も出せ。どうせ慣れてんだろ?」
「いやなら今すぐやめろよ。俺ら、強制してねーし」
ニヤリと笑いながら、彼らは遥の背中を押す。
手が震える。拒絶したい、でも──脳裏に浮かぶのは日下部の顔だ。自分のせいで彼が狙われる姿だけは見たくなかった。
「……っ」
震える手が制服の下に潜り込む。その仕草ひとつで、見ている者たちは爆笑をこらえきれず肩を揺らす。
「おーい、もっとわかりやすくしろよ」
「声、聞こえねぇな。尊重してんだからさ、もっとハッキリやれよ」
「……うるさい……」
小さな抵抗の言葉も、すぐさま笑いにかき消される。
「やめてもいいんだぞ? その代わり……明日、日下部がどうなるか分かんねぇけど」
その一言が決定打だった。
「……っ……やる……から……」
吐き捨てるような声。だがそれは完全な降伏だった。
やがて、静かな教室に遥の荒い息だけが重く響き始める。
「もっと、聞こえるように。気持ちいいんだろ?」
「嘘つくなよ。顔が真っ赤だぜ」
涙がにじむ。羞恥と屈辱で胸が張り裂けそうだ。それでもやめられない。やめた瞬間、日下部が標的になる──それだけは許せない。
「ほら、いいじゃん。ちゃんと意思で選んだんだろ?」
「これなら誰も強制してないって言えるな。教師にバレても、“あいつが勝手にやった”って」
彼らの狙いはそこだった。遥の意思を尊重した“体裁”を作り上げること。それが新たな遊びのルールになっていく。
「……もう……いいだろ……」
遥は声を震わせ、机に突っ伏す。
だが拍手が鳴り響く。
「いやー、今日も楽しませてもらったわ」
「明日は何にしよっかな。“二人で一緒にやれ”とかも面白くね?」
その瞬間、遥の胸は凍りつく。彼らが言う「二人」が誰を指しているのか、わかりきっていたから。