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「…………もしもし? 恵菜? 奈美だけど。この前のランチ、楽しかった! また行こうね。で、突然なんだけど、恵菜って今、家にいる? …………え? ホント!? ちなみに、今って、時間空いてる? …………良かった! ねぇ。今からうちに来ない?」
奈美と恵菜の通話を流し聞きしながら、純の鼓動が次第に速く、大きくなっていく。
「…………じゃあさ、おいでよ! うちから歩いて十分くらいだよね? 一応住所教えておくね…………」
純が強張った表情に変わっていくのを見た豪が、ニヤけながら口元を隠し、ククッと小さく笑っている。
「…………うん。じゃあ十分後ね。じゃあ、後でね〜」
奈美が耳からスマートフォンを離し、通話終了のアイコンをタップすると、純に向けてジワジワとアーモンドアイに弧を描かせた。
「谷岡さん。あと十分後…………ですよ?」
「マジかぁっ! メッチャ緊張するんだけどっ!!」
「ってか純。お前…………本気で女を好きになると……相当ヘタレに…………なるんだな……」
ポカンとした豪と、企むような部下の怪しげな笑みに、純は大きく天を仰いだ後、ダイニングテーブルに突っ伏した。
***
純と豪はソファーセットに移動すると、奈美がお茶を淹れ直してくれた。
緊張しているせいなのか、口の中が渇き、純は黙々と緑茶を流し込む。
恵菜に連絡を取ってから三十分後、インターフォンが来訪者を知らせ、奈美は玄関へと向かう。
リビングのドアの向こう側で、奈美と恵菜の話し声が、漏れ聞こえてきた。
『やだ、恵菜! またそんな気を遣わなくていいのに!』
『だって新居訪問は初めてでしょ? だから受け取ってくれる?』
恵菜は、手土産を購入してから本橋家にやってきたようで、彼女の澄んだ声色に、純の胸の奥が擽られる。
『もう本当にありがとう。リビングはこっちだよ。どうぞ」
カチャリとドアが開かれ、純は豪と向かい合ったまま固まっている。
(ヤベッ…………アホみたいにガチガチなんだろうな、俺……)
奈美が先導すると、おずおずと中を伺うように恵菜が入ってくる。
「いきなりお邪魔してすみません……」
凛とした声音が純の身体を突き抜けていき、更に緊張が増していく。
恵菜が純の姿を確認した瞬間、涼しげな目元が、ゆっくりと大きく見開いた。