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さのじん
夜の楽屋は、妙に静かだった。
「……なんで勝手に決めたの?」
低く抑えた声で、仁人が言う。
「は?勝手って何がだよ」
勇斗はソファに座ったまま、視線も上げない。
「ライブの構成。あれ、俺まだ納得してないって言ったよね」
「でも時間なかったし、ああするしかなかっただろ」
「“しかなかった”って、なんで一人で判断するの?」
「じゃあどうすればよかったんだよ」
ピリ、と空気が張り詰める。
仁人は一歩近づいた。
「相談くらいできたでしょ」
「してたじゃん。お前が曖昧な返事しかしなかったから、決めたんだよ」
「曖昧にしたのは、ちゃんと考えたかったからだよ」
「考えてる間に全部止まるだろ、現場」
「それでも、勝手に進める理由にはならない」
勇斗がやっと顔を上げる。
その目は、少しだけ苛立っていた。
「じゃあお前がやれよ、全部」
「は?」
「リーダーなんだろ?全部決めろよ。責任取れよ」
「……そういう話じゃない」
「同じだろ。結局誰かが決めなきゃいけないんだから」
仁人は一瞬言葉に詰まる。
「……俺は、一緒に決めたいって言ってるの」
「綺麗事だな」
「綺麗事じゃない!」
声が、強く響いた。
勇斗の肩がわずかに揺れる。
「みんなでやってるグループでしょ?一人で決めていいことと、ダメなことがある」
「だから、その線引きが分かんねえから動いたんだろ」
「分かんないなら聞いてよ!」
「聞いても答えねえじゃん!」
「考えてたって言ってるでしょ!」
「その“考えてた”で、どれだけ周りが待たされてるか分かってる?」
仁人の顔が、少しだけ歪む。
「……待たせるのが嫌なら、ちゃんと期限決めて言えばいいじゃん」
「言ってたよ」
「聞いてない!」
「聞いてたって!」
沈黙。
お互いの呼吸だけが、やけに大きく聞こえる。
勇斗が舌打ちをした。
「……もういいわ」
「よくない」
「じゃあ何がしたいんだよ」
「ちゃんと話したいだけ」
「今してるだろ」
「してないよ、こんなの」
仁人は視線を逸らした。
「……全部、勇斗が正しいみたいに聞こえる」
「別にそんなこと言ってねえよ」
「言ってるのと同じ」
「被害妄想だろ」
その一言で、空気が一気に冷える。
仁人の手が、ぎゅっと握られる。
「……そういう言い方、やめて」
「じゃあどう言えばいいんだよ」
「ちゃんと、対等に見て」
「見てるって」
「見てない」
即答だった。
勇斗が少しだけ目を細める。
「……なんでそう思うんだよ」
「決める時、俺の意見、最後にしか聞かないじゃん」
「それは……」
言いかけて、勇斗は言葉を止める。
「ほら」
「違う、それは優先順位の問題で」
「俺の優先順位、低いんだ」
「そういう意味じゃねえって!」
声が荒くなる。
でも、もう遅かった。
仁人は一歩引いた。
「……もういい」
「よくねえって言ってんだろ」
「今は、話しても無理」
「逃げんなよ」
「逃げてない」
「逃げてるじゃん」
「これ以上言ったら、もっと嫌なこと言いそうだからやめるだけ」
勇斗は何も言えなくなる。
仁人はそのままドアの方へ歩き出す。
「……明日のリハ、ちゃんと来て」
「行くに決まってるだろ」
「ならいい」
ドアノブに手をかける。
一瞬だけ、止まる。
でも振り返らない。
「……おやすみ」
静かに言って、そのまま出ていった。
残された楽屋で、勇斗は大きく息を吐いた。
「……なんだよ、それ」
誰に向けるでもなく、呟く。
答える人はいない。
ただ、さっきまでの言葉だけが、頭の中で何度も繰り返されていた。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
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