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けれど、豪に連絡をしても、全然返事がない。
優子は、めげずに連絡を取り、次第にメッセージの数が増えていき、気付くと一日十通ほど送るようになっていた。
彼の自宅最寄り駅である西国分寺駅で、待ち伏せした事もある。
やっとの思いで直接連絡が取れたのは、豪と別れてから数ヶ月後。
話があると言われ、立川のカフェで元恋人から聞いたのは、将来を考えている彼女がいる、との事だった。
最後には、『お前と寄りを戻すつもりは一切ない』と言い切られ、優子の中に、怒りが沸々と込み上げてくる。
(豪……いつの間に新しい恋人がいたの……!?)
豪から邪険に扱われた彼女は、彼からスマートフォンを奪い、豪の恋人のIDを削除すると、彼は怒りを露わにしながら奪い取り、優子のIDを通信拒否にしてから削除した。
顔をグシャグシャにしながら、喚く彼女。
かつての恋人に捨て台詞を吐かれ、一人取り残された優子は、どす黒い感情で心が塗りつぶされていた。
(許さない……。絶対に……許さない……!!)
帰宅しても、闇の坩堝に堕ちた彼女の気持ちは、ますます膨れ上がっていく一方。
翌日、優子はスマートフォンで向陽商会のホームページにアクセスすると、問い合わせ欄に、豪を名指しして罵詈雑言の書き込みを残した。
どんなに憎々しい感情があったとしても、豪の事は好きで、夏季休暇明けの初日、西国分寺駅で彼を待ち伏せをする優子は、彼から凍てつくような憎悪の眼差しを向けられると、警察に突き出されそうになり、慌てて改札に入っていく。
豪に会ったのは、これが最後。
後日、優子は、向陽商会のホームページに、豪への誹謗中傷の書き込みを行ったとして、名誉毀損罪の疑いで逮捕されたのだった。
***
「向陽商会のサイトで、名指しした男性社員っていうのは…………岡崎の恋人か?」
「そうです」
「…………報道で、岡崎の逮捕を知った時、俺は……何かの間違いじゃないかって思った」
氷が溶けて薄くなったアイスカフェオレを、虚ろな表情で口にしている優子を見ながら、元上司は、気の抜けた声音で独りごちる。
「まさか岡崎が、向陽商会の問い合わせ欄に、誹謗中傷の書き込みをする──」
「専務」
回想する廉の言葉に、優子は無性に苛立たしく感じ、低い声音で彼の言葉の先を途絶えさせた。
「今はHearty Beautyにいた頃の私ではありません。前科者に落ちぶれ、これから専務に身体を売る女です。早く……目的を達した方がいいと思います」
彼女は無感情な声音で、かつての上司に言い放った。
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