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坪野は震える瞳で、霊たちの姿を見つめていた。
「ば、ばあちゃん・・・」
幼い頃、何度も抱きしめてくれた祖母の姿がそこにあった。
そして、その隣には見覚えのある顔が幾つも並んでいる。
「それに・・みんな・・・」
震える声が漏れる。
「そうか・・・ずっとこの村に居たのか」
すると、一人の少年が穏やかな笑みを浮かべた。
「康仙・・・俺たちは大丈夫だよ」
幼い少女も無邪気に微笑む。
「そうだよ、康兄ちゃん」
坪野の喉が詰まる。
「みんな・・・ごめん」
しかし、少女は首を横に振った。
「何言ってんの?康ちゃんは頑張ったよ」
青年も力強く頷く。
「そうだよ、康仙・・・ずっと
俺たちの為に、ありがとうな」
祖母は優しく目を細めた。
「康仙よ・・すまなんだね・・」
皺だらけの手を胸に添え、静かに微笑む。
「おまえ一人に、えらいもんを背負わせてしまったね」
坪野は子供のように嗚咽を漏らした。
「ばあちゃん・・・」
涙を拭うこともできず、震える声で呟く。
「ごめん・・俺、世界を変えたかったけど」
力なく笑う。
「俺には無理だったみたいだ・・・」
祖母はゆっくり首を振る。
「何言ってんだい・・お前は
孤独と戦って頑張っとったさ」
「そうだよ康仙」
少女は満面の笑みを浮かべる。
「康兄ちゃんはいつまでも
ウチらの ヒーロー忍者赤丸だよ」
その名前を聞いた瞬間、坪野の表情が変わった。
「赤丸・・・」
どこか懐かしそうに空を見上げる。
「久しぶりに、その名前を聞いた気がするよ」
遠い昔を思い出すように目を閉じた。
「そうだ・・・俺は昔からヒーローに憧れてたんだった」
苦笑する。
「人に隠れて悪を斬る、 弱きを助け 強きをくじく
そんな 赤丸みたいなヒーローに俺はなりたかったんだ。
復讐心に囚われて そんな初心さえも忘れてたよ」
坪野はかつて思い馳せた、理想的なヒーローを思い浮かべながら、静かに息を吐く。
「康兄ちゃんは立派なヒーローだよ」
少女は満面の笑顔で頷いた。
坪野は目を潤ませながら微笑む。
「ありがとう・・・」
そして霊たち一人一人へ、深く頭を下げた。
◇ ◇ ◇
「みなさん・・・ありがとうございます」
涙を浮かべたまま続ける。
「皆とこうして再び逢えて、天縁教団教祖
である坪野康仙から、ただヒーローに
憧れていた頃の、一人の少年に戻れた
そんな気がします・・・」
しかし、その表情はすぐに引き締まる。
「ですが・・私が今までしでかして来た悪事は
決して許されない・・・罪を償いたい」
桃子は静かに口を開いた。
「自分の命をもって償うなんて言わせないわよ?」
坪野は静かに頷く。
「わかっています」
穏やかな口調で続けた。
「自分の命をもって償う。それが一番
簡単で楽な方法かもしれません
ですが、私の人生は色んな人を利用し
傷つけ続けた。私の人生は、そんな人生でした」
目を閉じる。
「そんな私が、楽をしてはいけない
今はそう・・・理解しています」
そして、そばに立つ二人の男へ視線を向けた。
その眼差しは、今まで誰にも見せたことのないほど温かかった。
「ですが、彼らは違います」
静かに指を差す。
「彼は私に利用されていただけに過ぎません」
男は驚きの表情を浮かべた。
「教祖様・・・何を!」
もう一人も慌てて声を上げる。
「我々はお救い頂いた。教祖様と共に──」
坪野は首を横に振る。
「私が君らの事を救った、そう思うのは間違いです」
二人は言葉を失った。
「え!?」
坪野は静かに微笑む。
「救われていたのは、むしろ私の方だったんですよ」
君らの存在があったからこそ、私は今日
この日まで、生きながらえる事が出来たんです」
深く頭を下げる。
「私は君らに恩があるんですよ・・」
男たちは涙を浮かべる。
「教祖様・・・」
坪野はゆっくりと顔を上げた。
「天縁教団教祖としての最期の頼みです」
穏やかな声で告げる。
「私の事を忘れて、自分の為に生きてください」
男の肩が震えた。
「ぐすっ・・・」
涙を拭いながら、それでも力強く首を振る。
「分かりました・・・」
しかし、その瞳には決意が宿っていた。
「ですが、忘れる事など出来ません
出来るわけがない!」
嗚咽を堪えながら、坪野を真っ直ぐ見つめる。
「ですから──」
その瞳に迷いはなかった。
「教祖様の想いを胸に、生き抜きます!」
力強く告げられたその言葉に、周囲の空気が静かに震える。
そして、男は小さく微笑んだ。
「それでしたらお約束出来ます!」
その一言は、どんな誓約よりも重く、どんな契約よりも強い約束だった。
坪野はしばらく黙ったまま男を見つめていた。
やがて、その表情が柔らかく崩れる。
涙に濡れた瞳のまま、小さく頷いた。
「ありがとう・・・」
短い一言だったが、その言葉には教祖としてではなく、一人の人間として抱いてきた感謝が、すべて込められていた。
ゆっくりと息をつき、穏やかな笑みを浮かべる。
「それでこそ、私が心の底から信頼できた人です」
坪野の言葉に男は胸に手を当て、静かに頷いた。
もう言葉は要らなかった。
互いの想いは、その約束だけで十分に通じ合っていた。
コメント
1件
×××さん、今回も本当に素敵なエピソードでした…。坪野教祖が祖母や村の霊たちと再会し、「ヒーロー赤丸」という原点に戻る場面、胸が熱くなりました。あの「忘れて生きて」と信者に伝えるシーンも、教祖としてではなく一人の人間としての贖罪の覚悟が感じられて、とても好きです。長い物語の集大成として、心に響く回でした。
#普通
野々さくら
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ありあ
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