テラーノベル
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新開村上空の空は徐々に茜色を帯びた夕焼け模様になりつつあった。
「ではみさなん・・行きましょうか」
坪野が穏やかな声で切り出すと、一同は小さく頷き、その後に続こうとした。
しかし、その時だった。
「あ、待ってください!」
龍河が慌てて声を上げる。
「どうかされましたか?」
坪野が首を傾げると、龍河は人数を数えるように辺りを見回した。
「俺に怪異探求倶楽部、それにお母さんに
天縁教団の3人・・合わせて10人か・・」
信愛が不思議そうに尋ねる。
「どうかしたんですか?」
龍河は困ったように頭をかいた。
「いや、俺らが乗って来たハイエースは
6人乗りだから・・・全員乗れねーぞ?」
その言葉に、茜がぽんと手を打つ。
「あれ? 教団の人が乗って来た
車って無かったでしたっけ?
ああ、ほら! あの黒いやつ」
龍河は目を丸くした。
「あっ、そっ・・・そうだった
すっかり忘れてたわ・・あはは」」
照れ笑いを浮かべながら肩をすくめる。
すると茜はにやりと笑い、歌うような調子で、龍河の脇腹を突っつきながら、からかい始めた。
「はいぃ〜♬馬場さんバカァ〜♬
記憶能力ニワトリィ〜♬
三歩あるけば忘れるニワトリィ〜♬」
焔垂がすかさず眉をひそめる。
「馬場さんを馬鹿にすんな!」
その直後、焔垂は茜の頭を軽く小突いた。
「いったぁ〜・・・」
茜は頭を押さえながら焔垂を見上げる。
「叩かないでよね?」
「お前が馬場さんを馬鹿にするからだろーが」
しかし茜は悪びれる様子もなく笑った。
「馬場と馬鹿ってさ、なんか字面似てるよね(笑)」
龍河は思わず身を乗り出した。
「一緒にすんな!おい!」
すると、さくらまでくすくす笑いながら口を挟む。
「もう、馬鹿さんを馬場にしちゃダメだよ」
「誰が馬鹿さんだ!誰が!
逆になってんだろーが!」
龍河の必死のツッコミに、周囲から笑いが漏れる。
「あとさ・・・一応俺、君らの
倍くらいは年上なんだけど?
絶対年上だって思ってねーよな?」
龍河は少しだけ拗ねたような表情を見せた。
茜は笑顔のまま首を振る。
「嫌だなぁ、馬場さん。こういう
やり取りは、人として好きで信頼してる
相手だからこそやるんじゃないですか〜♬」
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
龍河は少し照れ臭そうに笑う。
「それ・・・素直に喜んでいいのか?」
そのやり取りを見ていた銚子が、小さく微笑んだ。
「ふふふ」
朝陽は呆れたように肩を落とす。
「もう・・・みんなして」
そんな賑やかな空気の中、坪野だけは静かに周囲を見渡していた。
やがて、穏やかな口調で問い掛ける。
「いつも・・・こんなに賑やかなんですか?」
信愛は迷うことなく頷いた。
「まぁ、大体はこんな感じですね」
「そうですか・・・」
坪野は優しく微笑んだ。
その笑みには、どこか寂しさが滲んでいた。
「坪野さん?」
信愛が声を掛ける。
坪野は静かに息を吐いた。
「ああ、すいません。馬鹿にしたわけではないんです」
少し遠くを見つめるように続ける。
「ただ、私は人間は絶望の 集合体
だ とばかり考えていました」
信愛は黙って坪野を見つめる。
「しかし、君たちの何気ない
やり取りには絶望を一切感じない
それどころか優しさや微笑ましさすら感じる」
穏やかな風が吹き抜ける。
坪野は空を見上げながら言葉を紡いだ。
「私も早くに君たちのような子たちと出会えていたら、道を踏み外さずに済んだかもしれないとそう感じたんです」
信愛は静かにその言葉を受け止めた。
「坪野さん・・・」
坪野は苦く笑う。
「私は人間を見ていた気になっていただけで
実は何も見えてはいなかったんですね」
少し首を横に振る。
「いや・・違いますね・・目を逸らしていたんです」
視線の先には、何気ない山々の風景が広がっている。
「こんな当たり前な光景すら見ようとしてこなかった」
その声は震えていた。
「見てしまったら、自分がずっと信じていたものが
崩れる気がして怖かったんですね」
自嘲するように笑う。
「とんだ愚か者・・臆病者ですね・・私は・・」
銚子は優しく首を振った。
「そんな事ないわ、坪野さん」
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
「そもそもあなたは修理固成を行おうとしていた
滅亡ではなく創り直し。すなわち
あなたは信じていたんです。人間を」
坪野は目を見開いた。
「私が・・人間を・・信じていた?」
銚子は静かに頷く。
「本当に国や人間に絶望していたのなら
迷わず滅亡させる選択をしたはず
けど、あなたはそれをしなかった・・・
人間ならまた同じ文明まで戻ってくる事ができる
あなたは心の奥底で、そう信じていたんですよ」
坪野はゆっくりと目を閉じる。
「なるほど・・・」
小さく息を吐き、どこか憑き物が落ちたような表情を浮かべた。
「言われてみれば確かに
そうかもしれませんね
信じたかったんでしょうね・・・」
静かな声でそう呟く。
「しかし君らは違った
最後まで人や自分を信じて続けた」
信愛は静かに首を振った。
「違います・・それしか出来なかっただけです」
少しだけ照れたように笑い、まっすぐ坪野を見つめた。
「坪野さんみたいに全てを犠牲にする
度胸もないけど、私たちは怪異探求倶楽部の
活動を通して色んな経験をしました・・・」
少し目を伏せる。
「目を背けたくなる様な辛い話も沢山聞きました」
静かな空気が流れる。
その一つ一つを思い返すように、信愛は続けた。
「そんな時に・・・思ったんです
この人たちは、信じて寄り添ってくれる
人がひとりでもいたら、別の未来が
あったんじゃないかって・・・」
その瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。
「なは、そのひとりに私たちがなればいいんだって
そう思って、ただ信じることしか出来なかった」
柔らかく微笑む。
「それだけです・・・」
少し間を置き、信愛は静かに坪野を見つめた。
「でも、わかったんです。人も霊も同じ
ラベルで見るんじゃなくて、ちゃんと
目を見て話して、寄り添えば理解し合える」
坪野は静かに頷いた。
「私が長い年月を費やしてもなお
導き出せなかった心理に気づけたわけですね」
悔しさではなく、どこか清々しさすら感じさせる表情だった。
「私が見ようとしてこなかった物
目を逸らし続けた物を」
ゆっくりと息を吐き、信愛たちを見渡す。
「君らは逃げずに寄り添い続けたんですね」
その声には、深い敬意が滲んでいた。
「私は人を理解しようとせず、拒絶し
人となりを勝手に決めつけていた」
自嘲気味に笑う。
「どおりで簡単な逃げ道を
利用していた私には敵わないわけだ」
そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「君らの様な子たちこそ、修理固成は
成し遂げる事ができるんでしょうね」
遠くの景色へと視線を向けながら、小さく呟く。
「壊して創り直すではなく、生きたまま寄り添う事で」
コメント
1件
読了しました。このエピソード、すごく良かったです。冒頭の龍河さんが車の定員を忘れてしまったドタバタから、茜さんや焔垂さんの軽妙な掛け合いで和んだ空気が一転、坪野さんの「人間は絶望の集合体」という重い告白に引き込まれました。でも銚子さんの「修理固成は滅亡ではなく創り直し、あなたは人間を信じていた」という言葉で、坪野さんの長い孤独が少しずつほどけていく感覚がして、胸が熱くなりました。最後の「壊して創り直すではなく、生きたまま寄り添う事で」という呟きが、この物語のテーマを静かに、でも確かに貫いていると思いました。