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怜は、ダークネイビーのスーツの上着を脱ぎ捨てた後、まだきっちり閉めたままのネクタイのノットに手をかけ、荒々しく引き抜きながらワイシャツの一番上のボタンを外した。


その仕草に男の色香を感じ、奏の鼓動が大きく波打つ。


「奏……」


奏から覚束ない様子で伝えられた想いに、怜は眉根を寄せ、嬉しさを噛み締めながら彼女を強く抱きしめると、堪らず奏の唇を奪い、舌を割り入れた。


小さな舌を絡めた瞬間、彼女の身体がピクンと震えたが、奏は怜の舌を受け入れている。


キスを交わしながら、奏が拒否しなかった事に安堵し、怜は尚も彼女の口腔内に舌を侵入させた。


小さな後頭部を無骨な手で支え、激しくも気持ちが込められたキスに、奏の身体は脱力していく。


舌同士がねっとりと絡み合い、静寂に包まれたリビングに水音が響いている。


怜の唇が頬から滑らかな首筋へと伝い、奏の表情が艶麗に滲んだ。


「……っ」


奏の唇から吐息が零れそうになるが、何とか堪えた。


ひとしきり怜の唇が奏の首筋を彷徨い続けた後、艶めいた唇に触れるだけのキスをした。


怜が色白の頬に触れ、そっと撫で続ける。


「俺に想いを伝える事、奏にとっては……すごく勇気がいっただろ? それでも気持ちを打ち明けてくれた事…………すげぇ嬉しい……」


言いながら、怜は柔らかな奏の頬に唇を落とした。




***




「奏。今日は色々な事があって疲れただろ? こんな時間だけど、シャワー浴びるか? それともベッドに入って寝るか?」


長い黒髪に触れながら怜が聞いてきた。


時計を見やると、いつしか日を跨ぎ、もうすぐ午前一時になろうとしている。


「本当のところ、すぐに横になりたいですが……シャワー浴びたいです」


「なら入っておいで。俺の部屋着を用意しておくから」


「はい」


奏は先ほどコンビニで買ったアメニティグッズ一式と替えの下着を持ってバスルームに向かうと、怜がチャコールグレーの部屋着を手渡してくれた。


「お風呂、お借りしますね」


怜が奏の唇に触れるだけのキスを落とす。


彼女がバスルームに行ったのを見届けた後、怜はリビングに戻り、ソファーにドカっと座った。




(ヤバいな……。俺……理性を保てるか……?)


怜は、先ほど辿々しく自分への想いを告げてくれた奏を思い出す。


瞳を潤ませ、声にならないような声音で怜に伝えてくれた奏に、愛おしさが震えた。


だが、数時間前に恋人同士となったばかりなのに、すぐに彼女を抱く事は彼の中で憚られた。


しかもその前に、奏はかつての恋人、というだけで胸糞が悪くなるが、彼女の心身を傷付けた男に、セフレになってくれと言われたばかりだ。


奏の中では、セックスに対する恐怖心が、まだ植え付けられたままだろう。


「少しずつ触れ合っていきながら、慣れていった方がいいんだろうな……」


怜の心の中に、オスとしての欲が芽生え始めるのを感じつつ、独りごちる。


(奏を抱きたいと思うのは、自分の性欲を解消させるためじゃない。好きな女だからこそ、心も身体も……全てを……愛したいんだ……)


彼が思考の海を漂っていると、バスルームの扉が開く音が微かに聞こえ、奏が怜の部屋着に身を包んでリビングに戻ってきた。

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