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「さっぱりしたか?」
「はい。お陰様で」
奏が緩く笑みを浮かべて怜に答えた。
「俺もシャワー浴びてくる。さっきコンビニで買ったお茶、冷蔵庫に入ってるから飲んで待ってるといい」
「ありがとうございます」
奏と入れ違いで、怜がバスルームへ向かっていく。
遠くでバスルームのドアが閉まる音が響き、奏は、ソファーに腰掛けた。
怜から借りた部屋着は、彼女には相当大きい。
ダボっとした着心地が落ち着かなくてソワソワしつつも、リビングを見回す。
(それにしても……凄い広いマンションに住んでるんだな……)
会社を継がないとはいえ、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの社長の息子の恋人になったのだと、奏は妙な実感が今更ながら湧いてきた。
ぼんやりしながら考えていたら、喉がカラカラに渇き、冷蔵庫からお茶を取り出してソファーに座ろうとした時。
テレビの下のオーディオラックを何気に見やると、フォトフレームがポツンと置いてあるのに気付いた。
「え……?」
よく見ると、それは先月、本橋夫妻と湘南へドライブに行った時、親友の奈美が撮ってくれた写真だ。
楽器を持ち、怜が奏の肩に手を添え、彼女も柔らかな笑みを見せながら、彼に少し寄り添っている。
改めて見てみると、その笑顔は、自分ではないように見えてしまう。
(怜さん……私と一緒に撮った写真……飾ってくれているんだ……)
恐らく、恋人関係になる前から飾っていたのだろう。
そう考えると、何だかくすぐったくなってしまい、奏の頬が薄紅に染まっていく。
ひとまずソファーに座り、お茶を飲みながら怜がバスルームから出てくるのを待つ。
(怜さんがお風呂から上がったら、あとは寝るだけだよね。もしかして、同じベッドで寝る事になるのかな。どうなっちゃうんだろう……?)
程なくして、バスルームの扉が開く音が聞こえ、怜が長袖の黒いTシャツに同色のスウェットを着てリビングに戻ってきた。
濡れた髪、そして無造作に下された前髪。
スーツを着ている時とはまた違った雰囲気の怜に、奏の心臓がドクンと跳ねる。
バスタオルで髪をタオルドライしている怜から放たれる、男特有の艶っぽさに、彼女は目眩でクラクラしそうになった。
怜も喉が渇いたのか、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを勢いよく開けると、グビグビっと飲み出した。
上下に動く喉仏に『男』を感じた奏は恥ずかしくなり、怜から顔を逸らす。
「奏? どうかしたか?」
缶ビールを片手に、怜が奏の隣に腰を下ろすと、ほんのり赤く染まった頬に掛かる艶髪を指で掬い、耳にかけた。
怜の喉仏に男の色気を感じた、だなんて恥ずかしくて言えない。
奏は、テレビの下にあるオーディオラックの上に飾ってあるフォトフレームを見つめた。
「写真、飾ってあるなって思って」
「ああ、この写真な」
怜は嬉しそうな、気恥ずかしそうな表情を奏に向けた。